ふと、思い立ち、厨房に立つ。
菜飯である。
菜飯とは、きざんだ菜っ葉(通常は大根)を、
混ぜ込んだ飯(めし)のことである。
鬼平犯科帳などにも登場する。
菜飯田楽といい、豆腐の田楽(豆腐に八丁味噌を付けて焼いたもの)
と組み合わされることの多いものであった。
鬼平では下谷坂本(現、北上野付近)の奥州街道沿いに
「菜飯田楽を出す、気の置けない、飯屋」など、として登場する。
豆腐の田楽も、落語「味噌倉」などにも登場し、
江戸でも、一般的な食物であったのであろうか。
しかし、今、一般的には、どちらも、滅んでしまったメニュー。
(名古屋や、愛知県三河地方では残存しているが、
実のところ、筆者も、豆腐の田楽など、あまり食指をそそられるもの、ではない。)
しかし、菜飯である。
作る。
大根の葉は、今回は、よく洗い、細かく刻む。
それも、1mm以下の微塵切りである。
これに、塩をもみ込み、生のまま、白ごま、とともに、炊き立ての飯に混ぜ込む。
この、微塵切りで、生のまま、が肝要である。
以前には、5mm〜1cmに切ってみたこともあるが、これではいかにも
繊維が強(こわ)く、野暮ったく、「大根の葉」の存在感が強い。
また、この場合は当然、茹でる必要があろう。
食べる。
これは、うまい。
微塵切りのため、繊維の強さもない。
また大根の葉の香りとともに、、ほんのり、大根の辛みも
感じられる。
白ごま、も欠かせない。
なぜか、春っぽい。
呑んだ、仕上げ、にはもってこい、である。
大根の葉の利用法は、様々にあるが、
この、菜飯は、最もうまい料理法ではないかと思う。
この、うまさが、なぜ、忘れられてしまったのであろうか。