断腸亭料理日記2006

餡かけ豆腐

10月18日(水)夜

珍しく(?)21時。
もうだめである。明日に延ばせる仕事は、明日、で、ある。

帰る!。

歩きながら、なにを食おうか、考える。

お手軽に、ラーメン屋にでも、いこうか。
はたまた、作ろうか。

この時間、ラーメン屋で、あれば、あそこか、ここか。

作るのであれば、なんだろう。
簡単に、、、。
豆腐、か。

寒くなったし、餡かけ豆腐。
それもよいか。

餡かけ豆腐、といえば、池波作品にもよく登場する、池波レシピ、
と、いってよかろう。

ちょっと調べても、鬼平、梅安、剣客、どれにも
何ヶ所も出てくる。
しかしまあ、鬼平の、本所二つ目の五鉄で有名な、
「軍鶏鍋」ほどは、存在感のあるメニューではないだろう。

筆者も、ようは豆腐だろ、といった程度のイメージで、
さほど、食指をそそられてはいなかったし、
今時、チェーン居酒屋にも置いていないだろう。

こころみに、作品をみてみると、鬼平では、こんな場面。

*****

清水門外の盗賊改役宅の外の濠端に夜、茶飯売りが

荷を降ろす。それを、平蔵が、うさぎ(木村忠吾)などに買いにやる、、。

その茶飯売りは、餡かけ豆腐や、けんちん汁も出す、と、いう。

(池波正太郎著「鬼平犯科帳八巻」より「あきれた奴」 文春文庫)

*****

梅安では、豆腐といえば、もう彦次郎に決まっている。
とにかく、この梅安の相棒の彦次郎は豆腐さえあれば、という男。
春夏秋冬、冷奴、湯豆腐、のべつ豆腐。

*****

浅草のはずれ、塩入土手下の一人住まいの我が家に帰ってくると

彦次郎は、仕掛けの依頼の結び文に舌打ちをし、火を起こし、

土鍋で豆腐を煮、鉄鍋で葛餡をこしらえ、

『豆腐に熱い葛餡をかけまわした一鉢と大根の切り漬だけで、、』

五合ほどのんだ。

(池波正太郎著 「仕掛人藤枝梅安三 梅安最合傘」より「梅安流れ星」

講談社文庫)

*****

と、いうようなシーン。

剣客では、たとえば、

*****

新婚間もない、大治郎が、大阪へ旅立つ。

その朝、父の小兵衛、新妻の三冬、四谷の御用聞き・弥七が

高輪の〔七軒茶屋〕まで見送りにくる。

その〔亀屋〕という休み茶屋の二階の入れ込みの大座敷。

障子を少し開け、品川の海を見ながら、小兵衛は、

『熱々の餡かけ豆腐で酒を』のむ。

(池波正太郎著 「剣客商売六 新妻」より「川越中納言」新潮文庫)

*****

それぞれ、季節は晩秋から冬だが、時間も雰囲気も違う。
だがまあ、どっちにしても簡単にでき、気取らない、
つまみ、おかず、で、あろう。

さて、筆者は作ったことはない。
おそらくは食べているのかも知れぬが、記憶がない、
ほどに、存在感のないメニュー。

ひとまず、木綿豆腐を買う。

まったく何も入れないのが、本道であろう。
だが、出汁くらいはとってもよかろう。

鰹、で、しょうゆ味。
それに、椎茸なんぞは出汁としてもよいだろう。

乾燥のスライス椎茸も買う。

帰宅。

さて、まずは、鍋に水を入れ、乾燥椎茸を数枚入れ、加熱。
戻すのと、出汁。

煮立ってきたところで、火を止めて、置く。
椎茸で出汁をとる場合、本来は、昆布同様、水から一晩浸けておく
のだろうが、いつも、こんなものである。

その間に、日曜日のおでんがまだあるので、温め、
HPの更新などする。

椎茸がだいぶ戻ったところで、再び加熱。
そして、一度椎茸は皿に取り、鰹削り節を入れ、弱火。

別の鍋で、豆腐を温める。
一丁切らずにそのまま。すが入らないように、沸騰はさせない。

鰹の出汁も取れると、漉し、椎茸スライスを出汁に戻す。
これは、具でもある。

味付け。しょうゆ、酒で、少し濃い目。
味見。鰹と椎茸でなかなかよい出汁が出ている。

仕上げに水溶き片栗粉でとろみ付け。
濃い目と思い、ちょっとダマになってしまったが、まあよかろう。

温めた豆腐を鉢にそっと、移し、餡をかけまわす。

これも酒であろう。
温めた、おでん(大きながんもどき)も出す。

餡かけ豆腐。

これは、存外うまい。
むろん、豆腐の味としょうゆ、鰹と椎茸の出汁の味だけであるが、
濃い出汁と、濃いしょうゆ味にしたせいか、うまい。

なにしろ、淡白なものであるから、味と出汁は濃くしたのである。
腹も減っていたせいか、バクバクと食えてしまう。

しょうがなども利かせたらどうか、とも思ったが、これだけでも、
いや、このくらいシンプルな方が、餡かけ豆腐らしい。

大きながんもどきも食って、なにか、本当に、彦次郎になったような
気分である。

おでんの玉子も残っていたので、これも食べる。
豆腐一丁、大きながんもどき一つに、玉子一個。
酒二合ほど。
十分満足である。



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