断腸亭料理日記2006

浅草観音裏・鮨・一新

5月2日(火)夜

さて、浅草観音裏の一新。新規開拓の鮨屋である。

3月、始めて行ってみた


今回は、妻のリクエストもあり、来てみた。
今日は妻は休み。筆者も当然休み。

18時に予約し、出掛ける。
拙亭から観音裏までは、天気がよければ自転車でもよいが、
今日は、夏日となった昨日と打って変わって、寒い。
雨も、しょぼしょぼ。
タクシーをつかまえて、向かう。

着いたら、10分前。ちょっと、早かった。
まだ暖簾が出ていない。
ちょっと一回り。

18時、店に入る。

前回は、握りのみ、にしたが、今日は、つまみ、から、もらうことにする。
まず、ビール。キリンクラシックラガー。

小鉢で、毛蟹。
これは、ほぐした身と、みそ、も一緒に和えたもの。
同じく、小鉢で、生の白海老。
白海老は、この時期の富山湾の名物である。
桜海老ほどの小さな白い海老だが、頭が取られ、きれいに殻がむかれている。
以前に、自分でかき揚げにしたことがあった。

「これ、むくのはたいへんじゃないですか?」と、聞くと、
これは、むかれて売っているもの、らしい。
生は、ほんの少ししょうゆとわさびを付けると、おどろくほどに、あまい。

次は、まこがれい。
青磁というのだろうか、きれいな薄い青い小皿に載せられて出てきた。
ポン酢で食べる。この前、太助で食べたものともまた少し違っている。
とても、淡白。白身らしい白身、というのだろうか。
(聞かなかったのだが、もしかすると、城下鰈であったかもしれない。
城下鰈は、前に太助で食べたことがあった。)

中トロ。
赤身に近い部分から、中トロにかけて、という部分。
まこがれいもそうだったが、ここはつまみの場合、切り方が小さい。

とこぶし。
煮たもの。5cmほどのものを三つに切って出てきた。
ベラボウに柔らかく、甘い。
これは、酒と昆布だしで、3時間ほど煮るのだという。
苦い部分を取った肝もついており、これもうまい。

貝三種。
平貝、鳥貝、青柳。
まさに、今が貝の旬。
鳥貝もよいが、青柳が、ことのほか、うまい。
ここまでみずみずしい青柳は、なかなかないかもしれぬ。
そして、あまい。

ここまでで、つまみ終了。
これでも、かなり、腹は一杯になっている。
おまかせでつまみを頼むと、随分と量がある。

握り。

まず、さより。
これも今が旬か。
身が厚く、あまみと、うまみ。
さよりは、光物だが、白身といってもよいほどである。

みる貝。
これもいい。なぜこれだけ握りにしたのか。
食感が違う。プリプリである。
うまい。

鯵。
聞いてみるまで、切り方からであろうか、身の色からか、
鯖だと思っていた。
鯵の身は普通、微かに赤みがまじったような、少し濁ったような
色をしているが、これは白っぽいのである。
食べてみると、確かに鯵。
太助の前回、鯵らしい鯵、とも、気持ち違う、どちらかというと、
関鯵などに近い、か。でも、うまい。

まぐろづけ。
ここ一新の前回にもあったが、実は今あまり、覚えていない。
今日の印象は、熱が入った表面の食感。
意図であろうかとは思う。きちんと熱が入っているのか、
あるいはまた、染み込ませている味も比較的薄めなのか
淡白、という表現もへんかもしれぬが、そんな方向である。

春子(かすご)。
これは、字の通り春のもの。小鯛である。
光物に分類される。今日のものは昆布〆であるという。
塩気と昆布の味がかなり強い。
ちょとびっくりしたが、これはこれで、嫌いではない。
直前の、づけ、と、好対照である。

トロ。
実に、トロらしい、トロ、だろう。
脂ももちろんだが、柔らかく、あまい。

たこ。
前回は出なかった。
江戸前の仕事を見せるねた、で、あろう。
噛むと柔らかくうまみがあるが、表面はプリ。
この煮かた、なかなかなものではなかろうか。

車海老。
前回、これほどみずみずしい、茹で海老には、
初めて出合った、と感動したものである。
これはこの店の看板であろう。
前回同様、目の前で皮をむき、にぎる。
前回書いていないが、大きさも大きい。
身の先端、頭にかかる部分まで使っている。
これを一口にガブッと口に入れるのは、歓び以外なにものでもない。
すばらしい。

穴子。
太助同様、熊笹で炙る。ただし、太助ほど笹はこがさない。
やはり香りがよい。ほかほか、である。

やりいか。
半分に切って、握る。
わた、も、ともに、握る。
聞いてみると、子持ち、らしい。
柔らかく、乙な味である。

〆は海苔巻(かんぴょう)。
濃い味付けは江戸前。

文字通り、堪能、と、いうところであろう。


お勘定、二人で¥35000。
つまみ込みだと、この値段である。

前回、客層のことを少し書いたが、少しわかってきた。
目と鼻の先、隣町は名にしおう、吉原。
吉原の客が来ているのである。
どうも、これはもう、この店のキャラクターとせねばなるまい。
天神下の一心は、クラブのママさんと同伴の親爺。
やはり場所柄、である。
それはそれで、おもしろい、と。

また、店内にかかっているジャズ。
これは、ご店主の趣味というよりも、お客に勧められた、と、いう。
ふむふむ。
これもおもしろい。
この言葉、半分は照れ、でもあろうが、
なかなか、このご店主、フレキシブル、なのである。
ストイックなだけの鮨屋ではない、と。

ちょっとまとめよう。
筆者のよく行く、鮨屋、合羽橋・太助寿司
湯島天神下・一心。また、昨年行った、駒形の松波

方向としては、太助とは違う。
やはり、技を極めようという、松波だろう。
むろんのこと、松波は、完成された姿。
一新は、その途中の姿。
しかし、それだけではない、一心系松波、かもしれぬ。
筆者などが言うのも僭越かもしれぬが、おもしろみ、のようなものも
このご店主には感じる。
やはり浅草、おもしろいところである。


HP



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