断腸亭料理日記2006

上野西黒門町(湯島)

鳥やき・川中島

6月20日(火)夜

焼き鳥が食いたかった。

まあ、それだけなのである。

ここは、千代田線・湯島駅そばなのであるが、
町名は、台東区上野一丁目。
旧町名では上野西黒門町。
(池波ファンの方なら、覚えておいでかも知れぬが、
北大門町の文蔵親分の、北大門町は、この隣、北側。)

上野界隈でうまい焼き鳥や、というと、
どんなところがあるのだろうか。
少し調べて、ここに行き当たった。

鳥屋といえば、上野、天神下、湯島、と、名の知れたところが
何件もある。前にも書いているが、鳥つね

池之端の鳥栄、湯島三丁目の花ふぶき

など、随分とある。しかし、これらの店は皆、鍋が売り物。
(焼き鳥もある店もあろうが。)

上野界隈、うまい焼き鳥や、と、なると、どうなのであろうか。
なかなか、少ないように思う。

湯島駅の北へ向かって後ろ側の出口のすぐそばだが、
筆者は大江戸線の上野御徒町。
春日通りと中央通りの交差点から、裏通りを抜けて、昌平橋通り
(池之端、天神下、明神下から昌平橋への通り)へ出る。
昌平橋通りを明神下方向に歩き、左側、千代田線出口の隣。

同じ経営の讃岐うどんやの隣。
間口二間もないような、小さなところ。

入ると、すぐ左に二階への階段。
(二階にも席があるようである。)
奥に向かってカウンター7席ほど。

カウンターの前は調理場。
ガラスで覆われているが、もうもうと、煙を上げて、焼き鳥を焼いている。

カウンターに座る。
とりあえず、レモンサワーをもらう。

お通しに、野菜スティックに味噌が添えられて出てくる。

調理場の中は、ご主人なのかマスターなのか、
ガタイのよいおとっつぁんと、眼鏡のお兄さん。

焼き鳥の5本セット、¥850、と、いうのと、
名古屋風味噌味、どて煮、を。

野菜スティックなのだが、この味噌が、なかなか、よい。
ちょっと甘めで、何が入っているのかよくわからぬが、妙にうまい。

腹も減っており、バクバクと食う。

どて煮が、上がる。

む、む。これは、間違いなく正調名古屋風である。
八丁味噌で甘い。かなり粘度がある。
名古屋の味、そのものではなかろうか。
ひょっとして、マスターは名古屋の方?と、思うくらい。
二年半ほど住んでいたので、わかるつもりであるが、
実に、正しい八丁味噌を使った名古屋の甘い味噌味である。
レバーや皮、他に、大根、牛蒡などが、柔らかく煮てある。
うまい、と、いえよう。

さて、焼き鳥。
手羽先、ししとう、塩で。
備長炭で、焼きたて、ジュウジュウいいながら運ばれる。
うまい。

それから、つくね、レバー、ねぎま、これらは、たれ。
筆者はレバーが特に好きだが、どれも、うまい。

追加で、鳥皮ぽん酢。

ぽん酢が別になっており、つけて食べる。
鶏皮は一度ゆがいて、さらにあぶって焦げ目が付けられている。
なかなか、細かい仕事ではなかろうか。
これも、うまい。

呑みながら、気が付いたのだが、マスターとお兄さんの格好。
和食ではない。帽子はかぶっていないが洋食の上着。

洋食の修行をされた方なのであろうか。
フォアグラのパテ、などというメニューもある。

また、どて煮にしても、鶏皮にしても、一品の味の組み立て方というのか
仕上げ方、まとめ方が、とても繊細なように感じる。

お客に対してはむろん丁寧だが、仕事には厳しい。
なにか、微妙な緊張感のようなものも、調理場の中からは感じられた。

只者ではない。

と、このへんで、レモンサワー二杯で、帰る。

値段は、ごく普通の居酒屋。
なかなか、めっけものの、焼き鳥や、で、ある。

ぶらぶら歩いて、上野御徒町まで。




鳥やき・川中島



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