断腸亭料理日記2006

池波流(?)冷し汁考察

7月30日(日)第二食

さて、先日の冷し汁、で、ある。
もとは、仕掛人・藤枝梅安に登場した、料理であった。

そもそも、冷し汁とはなんであろうか。
ひやしじる、だが、ひやじる、ともいうらしい。
試みに、少し、検索してみると、、


宮崎

宮崎

宮崎

沖縄

秩父


この他にも、大分、瀬戸内、愛媛、山形、新潟などでもあるよう。
(あるいは、そうめんにかける、群馬、なども。)

味付けは味噌が中心のようだが、宮崎では麦味噌なども使い、
また、ごま、ピーナッツなども入ったりする。
そして、だしも、そこ、ここでいろんなバリエーションがあるようだ。
ことに、宮崎などのものは、いろいろなこだわりがあり、
粉々にし、だし、に加えて、実、としての役割もあるようである。
(また、豆腐が入るのもセオリーのようである。)

書籍など文献もあるかもしれない。
冷し汁、冷汁に関する、民俗学的、歴史的、食文化的考察をするには、
もっと調べてみなければなるまい。

そして、池波先生の冷し汁、の考察で、ある。
梅安にでてくるものは、先の例をみてみると
きゅうり、なす、などを入れるところから、
秩父のものにも近いような感じもする。

また、池波先生は、他にも冷し汁は書いていたと思う。
今、読み返してはいないのだが、確か、剣客にも出てきた。
これは濃くだしを取り、実がなにもないものだったと思う。

地方はともかく、この頃の江戸で、こうした冷し汁が
食べられていた、か、どうかは、謎、である。
八百善を初め、現代同様、超一流の料亭と、それを支える、
文化人、食通、好事家は存在していた。
こうした食べ方をする人がいなかったとはいえまい。

ちなみに、八百善は浅草山谷にあった当時江戸ではNo.1の料亭。
将軍様へも料理を出す。ペリー来航時にはその饗応にも加わっている。
そして、最近まで実は、続いていた店でもある。
NHKでドラマにもなった宮尾登美子「菊亭八百善の人びと」(中公文庫)
などもあり、ご存知の方もあるかもしれない。

(この作品は、八百善の歴史など、かなり丁寧に書いてもあるので
ご興味のある方は、お読みいただきたい、、が、ストーリーは、宮尾流、
相当にどろどろの、女と男の愛憎劇、で、ある。ご注意を。)

池波作品では料亭といえば、剣客商売「不二楼」、
梅安では「井筒」が、場所としては山谷あたり、である。
が、八百善のイメージは、むしろ、格式からすると、
向島の「大村」が筆者は近いかと思っている。

話が横道にそれてしまった。
なぜ、筆者が、冷し汁に、引っ掛かってたのか。
このことである。

読者の方々で、こうした冷し汁、つまり、冷たく冷した、
味噌汁、のようなもの、を、口にされたことのある人は、
どれくらいおられるだろうか。

筆者は、今回が初めて、で、あった。
初めてではあるが、そこそこ、うまいものである、
と、いうことは、わかった。

しかし、当初の印象は、まったく違っていた。
冷し汁、なるものを知ったのは池波作品である。
池波作品に出てくるのであるから、
まずかろうはずはない、とは思っていたのだが、
はっきりいって、第一印象は、かなりの違和感があったのである。
(読者の方でもそう思われている方も、いるかもしれない。)

前に、神楽坂の翁庵というそばやの
“冷しかつそば”なるメニュー
があった。

これには、かなりの、違和感がある。
温かくて、あたりまえのものを、冷して食べる、という
違和感、座りの悪さ、もっというと、気持ち悪さ、で、ある。

味噌汁を冷すと、いうのも、冷しかつそば、同様の違和感が
あったのである。
日本の食文化の中で、冷した味噌汁的なものが、どれだけ
一般的なものであったのか、ということである。
そこで、今回少し調べてみたのである。
(結果としては、前記のように、もっと調べてみないと、
はっきりしたことはいえない。)

そして、もう一つ。
どうすれば、うまい冷し汁ができるのか。
池波流は、鰹。生鰹節を粉々にする。
実際に作ってみても、大きな形の生鰹節では今一つ。
(ただし、これには限定が付き、火を通しすぎないもの
で、あれば、うまい。)

粉々にする、というのは、どうも、宮崎あたりのものにも
近付いてくる。
冷し汁は、魚を大量に使い、それも、粉々にする。
だし、兼、実である。

そして、野菜。
前回、なすは、火が通ったもの、も、よいか、
と、書き、その後やってみた。これは、間違ってはいない。
うまい、まずいでいえば、うまいのだが、冷し汁、ではない。
味噌汁の冷えたもの。
なすを煮込むとその味が汁に出る。
あくまで、筆者の感覚であるが、この野菜から出る味は、
もったり感があり、魚の濃いだしからくる
“涼味”を追求する冷し汁とすれば、若干違うものではなかろうかと思う。
また加えて、冷し汁の野菜の食感は、あくまで、シャキシャキ、
が合っているように思う。

断腸亭冷し汁、の結論である。
粉々にするのであれば、宮崎式に干物を擂る、が正解かと思う。
生鰹節ならば、あらかじめ、粉々に叩いておく。
だが、筆者は、宮崎式を試していないので、濃い目に取っただしに、
半生の生鰹節を大きめに入れる、を今日ひとまずの結論とする。
そして、きゅうり、なすを入れるのであれば、やはり、煮込まず
塩もみが、よい、としよう。

写真は、なすを最初から煮込んだもの。瓜は、瓜もみのまま。
右は生鰹節の甘酢かけ。




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