断腸亭料理日記2006
今日は、落語会、の反省である。
先週書いた、落語会のこと、
これは、直後に書いたもので、少し、時間が経って、
よくよく、思い返してみて、
一つ、気が付いたことがあった。
「細かないい間違い、大きないい間違い」などあったのではあるが、
これらは、聴いていただいた方にはわかりやすいミスなのだが、本当は、
もっと大きな、致命的な問題点があった。
次回への反省として、書いておかなくてはいけない。
それは、江戸弁。
はっきりいうと、江戸弁ができていなかった。
これは、江戸落語を喋るには、落第。
師匠にも、まずは、これを言われたことを思い出す。
天災は、
「『江戸っ子は 皐月の鯉の吹流し 口先ばかりで はらわたはなし』
なんということを、昔から申しますが、、」
こんなことを、枕にふる。
出てくるのは、ガラッパチの異名をとる、
いかにも江戸っ子の八五郎。
江戸弁ができていなければ、お話しにもなんにもならない。
いい間違いや、トチリの多くは八五郎であった。
舌が回っていない、江戸弁が切れていなかった。
会でも、申し上げたのだが、落語が落語らしく聞こえるのは
リズムとメロディー、である、ということ。
その基本が、まずは江戸弁。
江戸弁のリズムがあって、初めて、江戸落語は成立する。
これができていなければ、江戸落語に聞こえない。
習い始めの頃、「江戸弁がちゃんとできていないと、だめだよ!」
と、いわれた。
筆者は、「ん?」、と、思った。
(憚りながら、と、までは言わないが)筆者は、東京生まれ
東京育ち。母親は、地方出身であるが、
子供の頃から、明治生まれ、大井町近辺で育った祖父母、とも同居。
その、祖父母は、ヒとシが、いえなかった。
いわゆる、江戸っ子、の定義とは違うが、
また、筆者が使う言葉は、江戸弁とはいわないが、
少なくとも、東京弁、であるとは思ってた。
しかし、ぜんぜんだめ、であると。
江戸弁と、東京弁とは、まず、違う。
それは頭ではわかっていたが、筆者の言葉が、
そこまで、ダメだとは思っていなかった。
さらに、今、普通に、東京で話されている言葉も
どんどん変化しているのは、ご存知の通りである。
そこで、落語を習うには、まず、今喋っている言葉と
江戸弁とは、違うものである、と思うこと。
そして、外国語を新規に憶えるように、
ゼロから、昔の名人のテープやら、うまい師匠の噺やら、
とにかく、徹底的に、聴くこと。
そして、それを、憶え、自分の声に出して喋り、リフレインすること。
これをやんなさい、と、教えられた。
理屈ではない。これは落語というものが、伝統芸能であるから。
落語らしく聴こえるリズムとメロディー、その基本の江戸弁が
できていなければ、江戸落語ではない。
そういうことなのである。
今、サラリーマンとして、東京の会社で毎日働いていれば、
まあ、当然のごとく、そこは、江戸弁の世界でもないし、
子供の頃の東京弁の世界ですらなく、
どんどん変化している、ネオ標準語、とでもいったらよいのか、
そんな言語環境である。
意識をしていなければ、瞬く間に、自分の言葉も
変わっていく。
30代の、3〜4年、であろうか、先の教えの通りに
毎日、毎日、テープを聴き、憶え、繰り返し喋った。
(むろん、その頃も、仕事はしていたが。)
それで、やっと、師匠からOKを貰った。
それから、まったく離れていた期間が、5〜6年。
そして、昨年から、復活。
復活から、一年である。
そんなことで、戻ると思っていたのが、大間違い。
一度憶えたものだから、大丈夫であろう、と、
思っていたのは、甘かった。
雀、百まで踊り忘れず、なんというのは、
伝統芸、ことに、話芸にはまったくあてはまらないことを、
思い知らされた。
思い返すと、当時は、筆者の普段の言葉も、違っていた。
特に、内儀さんと、夫婦喧嘩でもしようものなら、
かなり、怖いものであった。
(むろん、筆者の口調が、怖い。)
こんなことを、ちょと、愚痴ったら、太助の親方にもいわれた。
せっかく、遠くから、聴きにきて下さった方々に、
申し訳ないものを聞かせては、いけない。
反省、で、ある。
初心に戻って、まず聴くことからやり直し、で、ある。
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