断腸亭料理日記2006
8月27日(日)夜
AM、スカパーで「剣客商売」(藤田まこと版「騙された男」)を見ていると、
泥鰌汁(鍋)が出てきた。
よし、今日は泥鰌を食おうか、夏であるし。
泥鰌、どじょう、どぜう、で、ある。
泥鰌は東京下町の名物、と、いっていよいだろう。
筆者の住む浅草では、駒形の駒形どぜう、と西浅草の飯田屋。
そして、深川は、高橋(たかばし)の伊せ喜
あたりが、有名店であろう。
池波作品、原作にも泥鰌鍋はよく登場する。
三ノ輪の川魚料理や、川半、などというところだったり、
浅草雷門、並木の泥鰌や、などという設定だったり。
(どちらもやはり、剣客商売であったか。)
東京下町の泥鰌鍋は、いわゆる丸鍋といって、
底の浅い小鍋で、丸のままの泥鰌を酒としょうゆで煮て、
山盛りのねぎ、山椒などをかけて食う。
いつの頃からあったのであろうか。
もっとも古い、駒形どぜうが1801年(寛政13年/享和元年)創業というから
寛政の改革で有名な、松平定信の少し後、江戸中後期、という頃か。
少なくとも、この頃以前から、飲食店として泥鰌やが成立していたのは
確かなのであろう。
泥鰌というもの、安木節、などにも歌われているが、
それこそ、日本中の田んぼに、いる(た)ものであろう。
それが、なぜ、ことさら東京下町の名物になったであろうか。
今、有名な店3軒を挙げたが、東京下町で以前には、
もっと多くあったのであろうか。調べたわけではないが、
おそらく、もう少しはあったのではなかろうか。
そもそも、泥鰌はうまい、のか?、で、ある。
川魚だから、泥臭い、などというが、これは慣れである。
そして、酒で煮ると柔らかくなるなどというが、それでも、
泥鰌は骨っぽい、ものでは、ある。
また、ぬるぬるして、グロテスクである。
ほぼ、生きたまま流通し、生きたまま調理する。
丸鍋などは、その形のまま食べるし、泥鰌汁もまた然り。
これだけのマイナス要因を差っ引いて、それでもうまいのか。
まあ、安かったことは間違いなかろう。
江戸近郊、どこの田んぼにもいたはずであるから、
安かろう。しかし、安いだけなら、鰯など江戸湾には
新鮮で安い魚もあったのではなかろうか。
それよりも、泥鰌が安かったのか?
そういえば、落語には泥鰌は出てきたであろうか。
思い出すのは、三代目三遊亭金馬の「小言念仏」。
念仏を唱えている親爺の長屋に泥鰌やが売りに来る。
念仏を唱えながら、泥鰌やを呼び込んだりする、あれ。
金馬といえば名作「居酒屋」の口上にも、とせうけ、「どぜう汁」があった。
しかし、うなぎやほどには、店としてのどぜう屋は出てこない。
結局のところ、なぜ、東京下町の名物になったのか、よくはわからない。
まあ、目の飛び出るほど、たとえば、うなぎの蒲焼のように
うまい、とはいえぬが、安く、濃いしょうゆ味と丸のままの泥鰌は
そこそこに相性がよかったのであろう。
江戸の庶民、男の場合は、気の置けない、乙な酒の肴として定着したのか。
そして、家庭では、長屋にも売りに来て味噌汁の実にする、
庶民的なものであった。そんなところであろう。
さて、泥鰌は、御徒町の吉池に仕入れに行く。
例によって、バケツで生きて売っている。
残り少ないので、全部買わされてしまった。¥600。
随分ある。
丸鍋と、汁と両方やろう。
汁用に、ごぼうを買う。
作る。
ごぼうは、ささがきにし、洗い、水に晒しておく。
鍋に、水、酒を入れ、火にかける。
泥鰌は袋から笊に空け、生きているため飛び出さぬように
気を付けながら、洗う。
すぐに、鍋に投入、蓋をする。
ここでも、跳ねる。
湯が沸いてくると、静かになる。
(なかなか、残酷である。)
一度、火を止め、丸鍋用のものを少し取り、
底の浅い、小鍋へ移しておく。
残りには、ささがきごぼうを入れ、味噌を溶き入れ、煮込む。
味見。ちょっと、薄い。
どぜう汁は濃い目がうまかろう、味噌を足し、さらに煮込む。
小鍋の方には、再度酒、しょうゆを入れ、軽く、煮る。
仕上げに、ざく切りにしたねぎを入れ、完成。
ひとまず、ビール。
まあ、丸鍋、べらぼうにうまい、というほどのものではないが、
やはり、乙な味であろう。前にも書いたように思うが、
最近の泥鰌は、ほとんど泥臭くもないし、また、
はらわたの苦味、というのも少ないように思う。
また、いわれている通り、酒を入れれば(なのか?)骨も柔らかい。
さて、どぜう汁。
ごぼうが煮えれば、OKであろう。
食べる。
なにか、さっぱりした感じになった。
考えてみれば、泥鰌汁を自分で作ったのは、初めて。
味は味噌のみだが、もう少し、こってりした感じの方が
イメージであった。
なにか他に入れるものがあるのだろうか、、。
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