断腸亭料理日記2006
8月26日(土)第一食
水曜日、京都へ出張する時に東京駅の本屋で
池波先生のエッセイ集、ル・パスタン(文春文庫)を買った。
読んだ記憶はあり、家に帰ればあると思われるが、
新幹線の中で手軽に読めるし、新装版になってもいるので
買ってしまった。
このエッセイ集は、1986年〜88年、のもので、90年に他界されているので、
先生の晩年のものといってよかろう。
半分ほどはフランス旅行のこと。そして一遍一遍に、
ご自身が描かれた挿絵が入っている。
なかで、「大蒜(にんにく)うどん」というのがある。
ご自宅での第一食に、ざるのうどんやそばを、よく食べ、
その汁(つゆ)に、摺(す)った大蒜を入れる、という話である。
そして、その後、そばやうどんの上に卵をのせ、「手早く器用に」
まぜて、汁につけて食べる、と、いう。
ここでは、汁に入れるのではなく、「麺にまぶす」のがポイントである。
剣客商売などにも、これは出てきた記憶がある。
おはる、がやはり、「手早く器用に」ざるそばに卵をまぶして、
食べていたようだ。
筆者はこれ、やったことはない。
うまいのであろうか。
池之端や並木藪などでは、あまりできないことかもしれぬ。
卵を別にもらわなくてはならぬし、ざるの上でまぶすとすると、
ざるが卵でよごれる、とみてよかろう。
少し、気が引ける。
このところ、京都(呑みすぎ)以来、少し風邪気味。
早く寝たのはよいのだが、早く起きてしまった。
7時、少し早いが、毎週土曜日第一食の恒例、路麺である。
そこで、毎度お馴染み、千束のねぎどんへいこう。
毎度、おろしそばに、桜海老天では芸がない。
卵まぶしを試してみよう。
ねぎどんであれば、許してくれよう。
(そばも生そばである。生そばは、自宅ではできない。)
さて、7:20ごろ、到着。
7時開店であるが、いつもくるのは、8〜9時頃。
土曜日のこんな時間でも、随分と人がいる。
もりそばと、生卵、それから、おろしと海老天。
これは、いつもの桜海老天(かき揚げ)を間違えた、のであった。
食券を買って、渡してしまってから気が付いたのであるが、
まあ、よいか、、。
さて、この小鉢の卵、どうしようか。
そばへまぶすのは、卵、なのであるが、卵黄のみか、
卵白も、ともになのか、わからない。
小鉢には卵黄も卵白も一緒に入っている。
全部かけてしまうと、文字通り、ざるが卵まみれになってしまう。
ひとまず、卵黄のみ、と思い、箸でそっとそばの上に
出そうと試みるが、お察しの通り、これは難しい。
卵白も一緒に出てきてしまうし、卵黄も崩れてしまう。
ええい、面倒だ、全部かけてしまえ!
あまり食欲をそそられる写真ではない。
「手早く起用」に、とはいかないが、
箸で、そば全体に絡める。
さて、どうであろうか、、、。
汁につけて、一箸、すすり込む、、、、?
いや、これはうまいのではないか、な?
もう一箸。
うんうん、これは、かなりうまいぞ。
考えてみれば、温かいそばであれば、生卵の入る月見、は
普通のメニューであるし、東京ではあまりやらないが、
地方へ行けば、ざるでも、汁に、うずらの生卵などはよく入れたりもする。
別段、味としては、変なことはない。
ただ、ざるそばの上で生卵をまぶす、という行為が、
若干お行儀が悪いような感じがする、ということなのであろう。
では、逆に、つゆ、の方に入れればよい、のかというと
それではつゆが薄まってしまうし、また、せっかくの卵が
つゆに残り、すべてそばに絡めて、食べられない。
ざるの上でまぶす意味は、そこにあるのであろう。
さて、そばを全部食べ、取っておいたおろしを
残ったつゆに入れ、海老天をつけて、食べ、さらにそば猪口に残った
おろし入りのつゆも、全部飲み干す。まさに堪能。
いやいや、なかなかこれはよい。
さすが、池波巨匠、で、ある。
ちょっと、くせになりそうである。
はて、これができそうな蕎麦屋は、他にあろうか。
そばの香りが、どうのこうの、というような、
ところは、よした方がよいであろう。
まあ、路麺であれば、大丈夫、か。
と、いっても、茹でそばではおもしろくない。
そうすると、他には、田端かしやま、神楽坂梅田、あたりか、な。
普通の町の蕎麦屋でもまあ、大丈夫であろう。
上野翁庵、あたりか、であれば、神楽坂翁庵でも大丈夫であろう。
ようは、趣味そばは、喧嘩を売るのか、といわれそうだし、
老舗は、勇気がいる、ということだろう。
神田まつや、は微妙かも知れぬが、池波先生御用達であったから、
OKかもしれない。
ともあれ、皆様も勇気を出して(?)、ぜひお試しあれ。
(とうに、皆さんやっていたりして、、。)
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