断腸亭料理日記2005

路麺・三ノ輪・長寿庵

12月17日(土)第一食

土曜日、第一食。今週は三ノ輪・長寿庵。

路麺は、筆者の、毎週土曜日、朝の楽しみ、で、ある。


前回日記

本当は、「日常」だけで、この日記本編に書くのは、
やめておこうと思っていたのだが、この店、どうにも不思議な魅力がある。
それを考えてみようと思い、書くことにした。

そもそも、三ノ輪、と、いうところで、ある。
台東区の北辺(ほくへん)と荒川区にまたがる地域で、ある。
町名としての三ノ輪は、台東区。
旧山谷掘りなどを境に、台東区と荒川区に分かれる。

まず、三ノ輪を通っている交通路からみていく。
道路は、斜め南北に、日光街道(大関横丁の交差点で、
昭和通りから名前が変わる)が通っている。
そして、その大関横丁の交差点は、明治通り。
田端方面から、白髭橋、墨田区方向へ、屈曲しながら、東西に走っている。

また、浅草からは、国際通り、土手通りが来ており、
根岸方面から金杉通り。日暮里からも、通りがある。

鉄道は、日比谷線、都電荒川線、そして、つくばエクスプレス。

鉄道はともかく、三ノ輪という場所は、このあたりの、
交通の要衝、ハブ的な、ところといってよかろう。

江戸の頃から、小千住(南千住)の手前で、
日光街道沿いは、古くから町屋として家があった。
ただし、街道を一歩はずれると、そこはもう江戸郊外の
田園風景が広がっていたようである。

このあたりが、本格的に開けたのは、やはり明治以降。

千住製絨所という官営の、ラシャ(コートなどに使う
厚手のウールの織物)の工場が、明治12年に、
今の荒川スポーツセンターや、荒川工業高校のあたりに
でき、墨田区北部などと同じように、工場のある
下町、ができていったようである。

そして、三ノ輪のいえば、ご存知の、
都電唯一の生き残り、荒川線、で、あろう。
三ノ輪橋から、早稲田まで、いわゆる路面(路麺ではなく、、。)
を走っているのは、ほんのわずかであるが、一応、
チンチン電車として、存続している。

三ノ輪の周りを見渡すと、隣はうなぎの名店「尾花」のある、
小塚原の南千住、きれいになりつつあるドヤ街、山谷、
日本堤、(吉原)、樋口一葉の竜泉、元々は文人墨客に愛された
風雅の里、根岸、日暮里。そんなところに囲まれている。

三ノ輪というところ、煎じ詰めると、
下町らしい下町、と、いって、なんら問題はなかろう。
荒川区側の町名は、南千住。だが、ここも、ミノワ、である。
三ノ輪橋駅を中心とする、アーケードの商店街、
ジョイフル三ノ輪やら、前に書いた、うなぎ屋さん
丸善、やら、いかにも下町らしい店屋が並ぶ。

このあたりが、三ノ輪の求心力の源であろう。

(そうそう、文章で伝わるかどうか怪しいが、三ノ輪の、発音のしかた。
一般に、東京の人間でも、地元人でないと、ミノワを、
平板に発音すると思う。しかし、ところの者、下町の者は、
「ミ」にアクセントを置き「ノ」を少し上げ、「ワ」で下げる。
江戸弁、と、いってよいのかどうかわからぬが、
これで、下町の人間かどうか、判別できてしまうのだが、
伝わらないだろうな、、これは。)

そんな、三ノ輪、で、ある。
長寿庵のことに、なかなか、たどり着かなかった。
歴史から、三ノ輪という町の成り立ち、これがあって、
はじめて、この店、三ノ輪・長寿庵が、存在する。
愛すべき、下町、三ノ輪、で、ある。

三ノ輪橋の駅から、日光街道に出る通路の出口。
前を、ビュンビュンと、自動車が走る、ほこりっぽい場所。
そこに、しょうゆで煮しめたような、カウンターや、二階へ続く
同じく、黒光りした、急な梯子段。昭和30年代ぐらいであろうか、
よくあった、食堂用のテーブルと、緑色の丸いスツール。

この季節でも、開け放たれた東向きの店には、朝日が燦々と
差し込んでいる。

野球帽(キャップ)をかぶったお爺さんと、筆者と同年輩と見えるが
ちょっと薄くなった短髪を染めている兄(あん)ちゃん、が、先客。
注文を終え、できあがりを待っている。

筆者も後に続き、天ぷらそば生玉子入り、を頼み、
邪魔にならない場所へ移動し、待つ。

今日は、出汁のよい香りが、店内には漂っている。

ほどなくできあがり、空いているテーブルに座って食べる。
テーブルにも朝日があたっている。

しかし、今日、あらためて、しみじみと思った。
このそば、うまい、のである。

見たところ、それぞれは、なんということもない。
茹でそばに、出汁が利いた少し濃い目のつゆ、桜海老は入っているが
なんということのない、かき揚げ。
(そして、筆者の場合、生卵。)
それぞれは、特別なところはないように思えるのである。
しかし、これらが合わさったとき、とてつもなく、うまいものに
変貌する。なぜであろうか、、。
やはり、決め手は、つゆ、で、あろうか。
濃いが最後まで、飲み干したくなる、つゆ。

不思議、で、ある。

三ノ輪と、いうところが、よい。
誰が見てもわかる、時代がついた店の内外。これもよい。
しかし、それだけではない。
ここ、ほんとうに、通える、うまいそば、
なのである。



東京都荒川区南千住1-15-6



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