断腸亭料理日記2005

浅草駒形・鮨・松波 その2

【続き】

さて、浅草駒形の・鮨・松波の続きである。

前回は、つまみ、三品(中トロ、カンパチ、〆鯖)までであった。
この分だと、何回分になるのであろうか。
いずれにしても、書くことが、随分とある、と、いうことである。
ご主人の、仕事をつぶさに書かなくてはならない。

ビールから、冷酒(れいしゅ)に替える。
金箔入りの加茂鶴大吟醸
(選んだのではない、これが出てきた。)

次。
鮑が出てきた。煮貝。
この切り方が、また、変わっている。
紙のように薄い。厚さ1mmくらいであろうか。
その代わり、大きさは、鮑の大きさ。
つまり、横にそのまま、薄く、スライスしてある。

ご主人は『固いものを薄く切るのは、簡単ですが、
柔らかいものを、薄く切るのは、難しいんですよ』
と、仰る。
(煮貝は、柔らかい。)
もちろん、均等の厚みで、切られている。
また、『ただ刺身を切っているようですが、それぞれに、
考えているんですよ』とも、いう。

それはそうであろう。
煮貝のこんな切り方は、初めて、で、ある。
これが、一番旨い、煮貝のこしらえ、と切り方である、
と、いうことなのであろう。

塩だけで、煮てある、と、いうから、文字通り、煮貝、
と、いってよかろう。

しょうゆも、わさびも、なにも付けずに、そのまま食べる。

煮貝というもの、どちらかというと、もともと、
旨みが、濃厚、なものである。
薄く切る意図は、なんであろうか。
煮貝の濃厚さ、を、よし、としない、と、いうことになる
ように、思われる。

同時に、ガラスの小さなお猪口に入れられ、
温められた、煮汁も出てきた。

これは、これは、とてつもなく、うまい。
煮貝の濃厚さ、そのもの、である。
(これで、飯を炊いたら、さぞ、うまかろう。)

この二つを併せて、煮貝、と、いうことなのかも知れぬ。

次。
たこ、である。
聞くまでもなく、いうまでもなく、佐島のもの。
これは、ぶつ切り。

比較してよいのかどうかわからぬが、佐島のたこ、といえば、
筆者には、天神下の一心、で、ある。(合羽橋・太助も佐島ではある。)

特段に、一心との違いはなかろう。
あま味と、旨みと、柔らかさ、、、、。
かわらぬ、江戸前の素材と、技。

幸せ、である。

次。
さより、で、ある。
で、あるが、梅肉をほんの少し入れ、海苔で細く巻かれている。
(酢飯はなし。)
これが、また、ねっとりとし、抜群にうまい。

つまみの、最後が、鯵、である。
これは、前回書いた笊の上から、である。

身は小ぶりなもの。
縦に細く切って、最後に、酢をくぐらせて、置かれた。

このような出し方も初めて、で、ある。
さっぱりと、もちろん、生臭味など、微塵もなく、
また、水っぽさ、とも、無縁。
また、脂も強くない。
鯵の旨み、だけが凝縮されている。

ご主人にいわれて気が付いたが、
見ている間に、酢で色が変わっていく。

手づかみで、どんどん、食う。

先の、さよりといい、この鯵といい、
素人などにはわからぬが、光物は、
本来は、寿司屋では、最もむずかしいものであるという。
何回か書いているが、いつどこで獲れたのか、
その後の、扱われ方、店での処理のし方、などなど、
生臭さ、脂ののり、うまみ、などなど、とてもデリケートで
変化しやすい。
(山本益博氏の「至福のすし」によると、「すきやばし次郎」
では、よいものが、ないと、鯵は、出さない、とも、いう。)

値段が安いものだけに、手間と技を掛けても、
それが客にわかりずらい、職人にとっては、損な、ネタ、
なのであろう。

なるほど、これがそうか、で、ある。



【続く】

HP



『御礼』

前々回、配信分の「志ん生アンケート」ご回答いただきました方々、
ありがとうございます。

お一人お一人の温かいメッセージをいただきまして、
深く感謝いたしております。
思い返すと、誤字脱字、間違い、錯誤、の、うえ、拙い文章、
いい加減に、書き散らしている日も、ないこともなく、
赤面の至り、でもあります。

しかし、この日記を書いてきて、なんらか共感していただけるものがある。
表層ではなく、本当の意味で、私の感じたこと、伝えたいことの
幾ばくかは伝えることができた、と、いうことを
皆様のメッセージから読み取ることができました。

インターネットと、いうメディアは、書き手が100の力で書いても、
伝わるものは、1、もない、というのが本当のところだと思います。
書籍、雑誌、TV、などと比べても、筆者のような文章を伝える、
ということにおいては、悲しいほど、薄いメディアであることを
痛感している、昨今でもあります。
(挙げた順で、低くなろうか。)

そのなかで、これほどの方々に伝わった、と、いうことは、
有難く、心底、書いてきて、よかった、と、思われました。

ありがとうございます。

また、ご愛読いただいているすべての皆様へ
改めて、ここで、御礼申し上げます。

今後とも、ご贔屓を賜りますれば、幸甚でございます。




『募集』
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