断腸亭料理日記2005

湯島天神下・鮨・一心

5月20日(金)夜

前回は4/8。

20時過ぎ。
同伴の皆様方が引け、ちょっと、空く時間である。
(立地、客層などは、前回以前をご参照下されたし。)

かなり、空腹。
お通しの、つまみ、も、さておき、いきなり、握ってもらう。
一個ずつ。

ちなみに、お通しは、まて貝・塩茹で、昆布の煮たもの。

先ずは、光物。
鯵、鰯、鯖。

もう季節も終わりなのであろうが、軽く〆た、鯖、も、うまい。
鯵のうまさは、言うに及ばない。瑞々しく、脂もほどよくのっている。

次。

金目昆布〆、鱸(すずき)、春子(かすご)。

金目は、脂もあり、とろけるようで、格別。
鱸は、走りか、今一つ。まだ、なのであろう。

春子、とは、文字通り、春のもの。
鯛の子供である。
寿司屋では、光物として扱われ、酢で〆て出される。
少し、大き目のものである。筆者、これも好きである。

小肌、にしん、たこ。

あまり、お薦めしませんが、と出された小肌。
もう終わり。

新子が出回るのは、もうそろそろ?、と、聞くと、
いや、ホントのは、7月、、8月くらいですよ、という。
6月には、メダカのようなのが出てくる。
これをいうと、あんなのは、食べちゃダメですよ。
酢の味しかしないでしょ?!
その通りである。走り、を必要以上珍しがる、のも、
違う、のであろう。

にしん、と、いうのも珍しい。
もちろん、生である。
今日は、なにか、光物のオンパレードである。
おすすめ、と、言われて、もらった。
鰯などよりも、生臭さもなく、うまい。

たこ。これは、毎度、定評のある、*佐島のもの。
あまみ、があって、柔らかく、格別。

この辺で、ちょっと、一息。
空腹のため、瞬く間に、食べてしまった。

経木に書かれた、品書きを見直してみると、
今日は煮だこ、と、いうのもある。

聞いてみると、煮た、たこであるが、握る、という。

じゃあ、それと、あわび塩蒸し、はまぐり。

先のものは、ボイルである。
煮だこは、しょうゆ煮(桜煮)である。
ただ茹でたものよりも、あまみ、が、増すような気がする。
もちろん、柔らかい。

あわびは、普通、寿司屋では、蒸したものも、
煮貝、という。
また、煮貝といえば、あわびのことだけを指す。

柔らかく、生臭さもなく、うまいこと、おびただしい。

ここ、一心は
柳橋・美家古(みやこ)鮨の流れをくみ、
江戸前のいわゆる“仕事”をしたものを、握る、
という技をさりげなく、続けており、すべての握りには
*にきりや、つめ、を塗って、出すスタイルである。

生のあわび、は、独特の臭み、が、ある。

蒸すことによって、これがなくなるのかどうか、わからないが、
“仕事”をすることによって、生よりは、旨くならなければ、
現代的な“仕事”の意味は、少なかろう。

やはり、しみじみ思うのであるが、ここ、一心は、
薄々感じていたが、只者ではない!!。

はまぐりも、プリプリ。

最後に、あなご、*城下鰈。

あなごも、でかく、握りの見た目もよく、
とろけるようである。

城下鰈が、最後になってしまった。

板さんは、さらっと、くせが、ないんですよ、と、いう説明。

そう。このくらいの言い方が、よいのかも知れない。
先の、新子ではないが、必要以上に、希少なものを有難がる。
日本人の悪い癖、かも知れぬ。

さて、終了。
今日は、都合14個。
これだけの仕事をした握りで、¥8000。
安いと思われる。

時には、若い衆へ鋭い言葉も飛ばす
店長のギョロギョロと光る目が、ネタの“仕事”へも、
行き渡っているのであろう。

うまかった。幸せである。

地図

*佐島。三浦半島、横須賀市の佐島漁港。東京近県では最もうまいと
いわれている、地物のたこである。

*にきり。しょうゆに酒を合わせ、加熱し、煮切ったもの。
つめ。穴子の煮汁を煮詰めたもの。煮穴子や、下足、しゃこ、
煮はま、などに付けて出す甘いたれ。(拙亭にも常備している。)
蛇足であるが、おあいそ、あがり、などはもちろん、
こうした、店側の符丁は、店では、お客は使わない方が、
よいと、思われる。自分では使わないようにしている。

*城下鰈。江戸時代からのブランド魚であろう。
大分県別府湾に面した暘谷城(ようこくじょう、日出城。
現、大分県日出町。豊後、日出(ひじ)藩2万5千石、木下氏)の
石垣のすぐ下で、獲れることからこの名が付いている。
真水の湧く場所で通常よりも海水濃度の低い場所のため、
泥臭くない、という。
江戸時代より、珍重された。まこ鰈である。




一心
TEL : 03-3835-4922
住所 : 〒113-0034 東京都文京区湯島3丁目43−12


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