断腸亭料理日記2004

里芋と葱のふくめ煮

1月16日(日)夕食
相変わらず、昨日から、冷たい雨。
終日、家。

午後、スカパー時代劇専門チャンネルで、
萬屋錦之介版の、鬼平犯科帳を見ていると、「土蜘蛛の金五郎」という回。
三ノ輪の一膳飯屋の場面。
里芋と葱のふくめ煮。

これが、原作で読んでも、実にうまそうなのである。
ちょっと、引用させていただく。

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[どんぶり屋]では、酒を出さぬ。できるものは、いわゆる[定食]のみであり、
だまってすわると、盆にのせられた[定食]が運ばれてきて、食べ終われば
七文を盆に乗せ、出て来ればよい。

 すわった平蔵の前へ、盆が運ばれて来た。
 熱い飯に味噌汁。里芋と葱のふくめ煮と、大根の切漬がついている。
 「ふうむ……」 

 平蔵は、里芋を口にし、感心をした。
 里芋と葱とは不思議に合うもので、煮ふくめた里芋に葱の甘味がとけこみ、
なんともいえずにうまい。なかなかに神経をつかって煮炊きをしている。

池波正太郎著 鬼平犯科帳11巻 文春文庫 土蜘蛛の金五郎 より


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平蔵が、汚れ浪人に、身をやつし、三ノ輪の
怪しい一膳飯屋(いちぜんめしや)を内偵するシーンである。
(ちなみに、この定食、飯と香の物は食べ放題。これで、七文とは、
破格の安さ。当然のごとく、客はあふれ返っている。)

この後、平蔵が岸井左馬之助扮する「平蔵」を暗殺する、
という話しになっていく。

「葱の甘味が・・・」などと、池波先生にしては、
珍しく、と、言うべきか、味について、多く描写している。

葱にしても、里芋にしても、あたりまえのものであるが、
忙しく立ち働く、店の若い者、湯気の出ている、白い飯と、
里芋の煮物が、目に浮かぶではないか。
これほどまでに、うまそう、に感じるのは、やはり、筆力。

また、三ノ輪、というところがまた、よい。
三ノ輪といえば、奥州・日光両街道の幹線街道沿い。
今の、昭和通り。

江戸からは、千住との中間地点。
上野からは、坂本、金杉、三ノ輪。
根岸なども近く、街道沿いは商店・町家が建ち並んでいるが、
一歩はずれると、のどかな、田園風景が、広がっている。

池波先生は、このあたりを舞台に選ぶことは、意外に多い。
三ノ輪は、江戸の周縁部分でありながら、
人通りも多く、無頼な者なども、いそう、、。
舞台立てとしては、
「何か」が、起きそうな、ところでもあろう。

そんな三ノ輪の、一膳飯屋。
そこで出される、里芋と葱のふくめ煮、である。

さて、これ、筆者は前にも、実は作ったことがあった。

ポイントの一つは、出汁、であろう。

里芋の皮を剥きながら、
鰹の荒削り節で、比較的長く、出汁を取る。
(拙亭には、普通の削り節と、厚く削ったものがある。
濃い出汁を取るには、よい、と思っている。)

削り節をこし取り、一口に切った、里芋を入れる。

味付けは、しょうゆと酒のみ。
葱と里芋は煮える時間がまったく違うので、
葱は、最後。

葱はぶつ切りの、比較的大き目に切る。
青い部分もうまそうなので、これも使う。

里芋に串を刺して、火の通り加減を見る。

OK。

葱は白い部分から。時間差で、青い部分。
煮過ぎは禁物。葱が煮えたら、終了。

酒の燗をつけて、食べる。

結構、味が濃くなった。
酒にもよく合う。

出汁もよく、なかなか、うまく仕上がった。
この手のものに、あまり興味を示さない妻も、
珍しく、うまい、という。

葱が比較的太めであったのもよかった。
確かに、葱の味と、里芋は不思議と、合う。

二人で、おかわり、までしてしまった。

世の中、いろいろな珍味もあるが、こうしたなんでもないものが
本当にうまいもの、なのかも知れない。


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