断腸亭料理日記2024
4663号
引き続き、浅草のすき焼き[今半別館]。
玄関棟、調理場のなどのある北棟、庭をはさんで南棟の
三棟が国指定の登録有形文化財。
今日の部屋は、庭に面した南棟ではないようなので、
やはり含まれてはいないのかもしれぬ。
そこまでいかないまでも、やはりこういう数寄屋造りの
部屋でうまいすき焼きを食すことができるのは、
ありがたいことである。
戦後の建築ではあるが、それでも70年は経っている。
毎日の手入れだけも並大抵ではないだろう。
今風のビルの中の店で食べるよりもたとえ同じ肉でも
どれほど価値があるか。
昨日出したが、肉。
近江牛。
近江というのは、我が国で最も歴史のある牛肉の産地。
江戸の頃は、井伊家彦根藩だが、牛肉はやはり名物で
将軍家にも献上されていたよう。
野菜類と、玉子。
焼豆腐、白滝、えのき、長ねぎ、春菊。
やはり、こんなところ。
ごてごて入れないのが、東京流であろう。
問題の白滝の太さは、ノーマル。
最初はやはり、お姐さんが焼いてくれる。
他のものは入れずに、肉だけ。
玉子を溶いた取り皿に、焼いて割り下を絡めた
肉を取ってくれる。
玉子の濃い黄色と甘辛の肉の色。
これもまた、美しいではないか。
もちろん、極上。柔らか。よい脂。
まさに堪えられぬうまさ。
我が国の誇るべき、黒毛和牛の最もうまい
食べ方の一つが間違いなく、この、すき焼き、
で、あろう。
欧米流のステーキではない。
ステーキでは柔らかく、脂が多すぎる。
しょうゆと砂糖と生の玉子。
シンプルといえばシンプル。
それ以上でもそれ以下でもない。
すき焼きの前は、ご存知のように牛鍋と呼ばれていた。
明治の御一新の後、堅くなに食べない人もいたようだが、
牛を甘辛く煮る牛鍋は大ヒットした。
東京の各盛り場に多くの店ができた。
この甘辛の味は、東京では先週食べた軍鶏(鶏)の鍋が
おそらくベースになったのであろう。
ただ、当時の牛肉は、もちろん在来の黒い和牛だが、
使役用のもので食用に育てられたものではなく、
堅かった、という。また、もしかすると匂いなども
あったのではなかろうか。
それが徐々に改良され、今の食用黒毛和牛になった
という。
黒毛和牛のすき焼きが生まれて、百数十年、
しゃぶしゃぶというのもあるが、すき焼きを
越えているとは思えない。変らず王者であろう。
もっと他の食べ方があってもよいと思うのだが、
不思議といえば、不思議である。
ともあれ。
もう一枚、お姐さんが焼いてくれる。
うまい、うまい。
あとは野菜類も入れて、
お姐さんは退出。
白滝、焼豆腐もしっかり味を染み込ませ、
食べる。
ある程度食べて、肉を少し残して、ご飯を頼む。
ご飯とすまし汁に漬物。
肉をご飯にのせ、残った玉子もぶっかける。
先週の鳥すきでもこうしたが、やはり、これが
一番簡単でうまかろう。
そして、おつゆ。
ここのすまし汁は、なんというのであろうか、
濃い。ちょっと特徴的。(白だしであろうか。
わからぬが。)
入っているのは、豆腐と湯葉、三つ葉。
デザート、水菓子。
柿。
トネガキ、と聞いたので、利根、かと思ったら
刀根柿、らしい。(刀根でトネ。)
果物にはまったく疎い。愛媛らしい。
愛媛が柿の産地であったのも知らなかった。
ちなみに、刀根は人の名前、とのこと。
こういうところでなければ、果物はほぼ食べない。
子供の頃は、果物自体よく食べていたし、
柿も好きであった。
やはり、甘すぎず、うまいもんである。
ここまで。
[今半別館]、数寄屋造りの部屋で、
極上のすき焼き。よい時間であった。
やはり、たまには来たい。
会計はそのまま、座敷で。
ビールも入れて26,378円也。
ご馳走様でした。
やはり、玄関先まで送ってくれる。
ありがとうございました。
03-3841-2690
台東区浅草2-2-5
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