断腸亭料理日記2024
4573号
6月1日(土)夜
さて。
すき焼き・浅草[今半別館]、で、ある。
随分と久しぶり。
内儀(かみ)さんが肉が食いたい、
ということで予約していた。
だがやはり、なかなか取りずらいよう。
浅草はいくつかある[今半]の発祥の地で
今、三軒ある。
創業の店を受け継いでいるのが新仲見世にある
[今半本店]。
そして、国際通りを渡った西浅草の浅草[今半]。
ここは弁当などでもよく見かける店。
人形町[今半]は浅草[今半]の分かれという。
戦争で焼けるまで[今半本店]は御殿などとも呼ばれ、
豪華な店舗で浅草の名物でもあったよう。
その様子を受け継いで、戦後開店したのが「今半別館」。
登録有形文化財の数寄屋造りの建物、部屋が
素晴らしいので最も気に入っている。
東京で今、これだけのものはなかなか見当たらなかろう。
18時予約で、タクシーで雷門まで。
雷門からは、仲見世の右側裏通りを北へ。
ほぼ外国人観光客オンリーでごった返している。
[今半別館]は浅草寺境内近い近い右側。
右側にテーブル席はあるが、座敷は、正面の玄関から。
今、座敷は予約のみで満席と書かれている。
玄関に入り、名乗る。
お姐さんがお待ちいたしておりました、と迎える。
部屋はすべて数寄屋造りの違った意匠の個室。
ただ、部屋を選ぶことができない。
きてからにわかるわけだが、今日は一階の一番奥。
新緑が美しい庭が見える。
板の間の廊下には硝子戸の内側に手すりがあり、ご丁寧に
金属の擬宝珠(ぎぼし)まで付いている。
ここは末広の間。
前回は、ちょうど一階隣の桜の間であった。
なん度もここにはきているが、この部屋は初めてかもしれぬ。
部屋それぞれにテーマがあり、桜の間は、桜の意匠。
今日は末広の間なので、扇がテーマ。
隣との間の、欄間。
これも扇。
その下の襖。
四枚あるが、右から梅、桜、菊、最後が松。
張り替えたばかりか、きれいである。
この意匠、専用であろうから、注文して作らせているのか。
障子。
これも扇だが、閉じた状態。
その上の欄間。
障子のモチーフも取り入れ、かなり派手といってよいだろう。
床の間の掛け軸。
名や印は私には読めぬが、この鳥は、うそ(鷽)、のように
見える。本来うそは冬鳥のようで、違うかもしれぬ。
といったところで、注文。
ビールをもらって、すき焼きのコース。
いつも同じだが、近江牛の10,000円の“こととい”
という名前のコース。
この下に、7500円、上には12,000円、さらに15,000円まで
ある。上は肉のランクの違いのようだが、食べたことはない。
10,000円で十分うまい。
先付け、から。
ビールはスーパードライ。
黄色の器。
中は鱧(はも)の湯引き、梅肉和え。
青みは小松菜か。茗荷も。
初夏らしい。
すき焼き以外、ここは基本割烹料理。
そして、前菜。
五品。
右から、三角のものは、和菓子で銘があって“水無月”。
上はあんこで、下は牛乳寒のよう。(和菓子では白い外郎
(ういろう)を使うという。)
京都の神社などで六月の三十日、晦日(みそか)に行われる
夏越祓(なごしのはらえ)でこの菓子は食べられるとのこと。
六月の晦日というのは、以前は民俗として一般でも十二月の
大晦日に近い扱いの日であったのである。
つまり一年の半分が終わり、ケガレを落とし生まれ変わる、
という行事。
今日から六月に入ったということであろう。
次が、鰯の生姜煮。
鰯もそろそろ入梅鰯といってうまくなる頃。
真ん中の黄色い器は、おひたしだが、
白菜(しろな)といっていた。
音読みすると、ハクサイだが、違うもので、
大阪、難波の夏の伝統野菜とのこと。
さっぱり、出汁を含ませている。
次がミニトマト。
なのだが、あちゃら漬けとのこと。
あちゃら漬けというのは、要は、唐辛子を入れた甘酢漬け。
まあ、南蛮漬けのことを和食ではこうもいうらしい。
一番左が、鶏の松風焼。正月のお節にも入れるもののよう。
上はけしの実で、鶏を細かく挽いて固めたものを焼く。
ほんのり甘い。
そして、きた、肉。
つづく
03-3841-2690
台東区浅草2-2-5
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