断腸亭料理日記2024

すき焼き・浅草・今半別館 その2

4574号

引き続き、浅草[今半別館]。

鱧(はも)の先付け、前菜五品ときて、
いよいよ、真打登場。

肉。

近江牛。
「こととい」は、A4〜A5クラス、肩ロース170gが一人前、
とのこと。

見事な霜降り。

近江は滋賀県。
我が国で獣肉というのは、江戸期以前、基本あまり
食べられてはいなかった。牛は農耕や運搬などの
使役用で食用のために生産されてはいないかった
ということである。古く、平安期、仏教上肉食禁止と
いう意味以外にも、使役用のものをむやみに食べては
いけないという意味で、禁止されてもいたと聞く。

もちろん、例外はたくさんあって、地域によって
食べていたところもあった。
薩摩など九州南部の豚肉食。そして近江、彦根の
牛肉食もその例の一つといってよいのであろう。
彦根藩が将軍家に牛の味噌漬けを献上していた記録もあり、
また、彦根城下には牛肉を喰わせる店があったよう。

私自身、あまり詳しいことはわからない。あくまで
想像の域を出ないが、武家には欠くことのできない武具、
馬具を作るためには皮が必要である。将軍家の先鋒を
預かる赤備えの彦根藩は積極的に牛を生産し武具、
馬具を作っていたのでは、と。

ともあれ。
近江牛は我が国最初のブランド牛といって
よいのであろう。

牛の肩肉というと普通は多少堅い部位である
と思うが、もちろん、そんなことはない。

野菜、ザク類は特に変わったものはない。

白ねぎ、春菊、えのき、白滝、焼豆腐。
白滝は、細め。やはり細いのに限る。

もちろん、お姐さんが焼いてくれる。

脂を引いて、肉を入れ、割り下を投入。

もう一枚。

すき焼きというのは正確には“焼き”ではない。
焼き煮、というのか、煮詰め焼き、というのか。
濃口しょうゆベースを煮詰めた割り下を、さらに
鍋で煮詰めて濃い甘辛の味を肉に付ける。
東京の伝統的な味付け方法といってよいのであろう。

焼けて味がしっかり付いたら、玉子を溶いた取り皿に
移してくれる。

これが、まずいわけがなかろう。

適度な厚みで、食べ応え。
そして、黒毛和牛の脂の、よい香り。

よい脂、などとよくいうが、あれ、で、ある。
黒毛和牛の脂は融点が低いと言われているが、
溶けやすさ、も、ある、のであろう。

最近知ったのだが、黒毛和牛の脂身だけ
売っていたりする。
特徴的なのである。
安い牛肉を黒毛和牛の脂で焼くだけで、
それらしくなったりもするよう。
もちろん、これは本物であるが。

続けて、白滝、焼豆腐。

白滝は、極細ではないが、十分細い方、で、あろう。
焼く際に水分を十分抜いて、割り下をしっかり含ませ
てもいる。
これもポイント、で、あろう。

ねぎやら野菜も入れて、お姐さんは退出。

肉、野菜を割り下で、焼いては、食う。

やはり、このくらいの量が我々にはちょうどよい。

そうたくさんは食べられぬ。

牛肉一枚と、焼き豆腐だけ残して、ご飯を頼む。

漬物と吸い物。

ご飯の上に牛肉と焼き豆腐。

残った玉子もぶっかけた。

以前は肉は食べ切ってしまって、あー、残して
おけばよかった、と、なん度思ったことか。

品はよくないが、これが最もうまかろう。

吸い物は湯葉と蒲鉾。
ここの吸い物は、意外に濃厚、なのである。
白だし系?。わからぬが。

食べ終わり、また、連絡。

水菓子、メロン。

洋食でいうデザートであるが、和食で水菓子という場合、
果物のこと。いわゆる菓子は含まないのが意外かもしれぬ。
江戸期から盛んに食べられていた。
江戸時代にフルーツなど食べていたのかと思ってしまうが、
なんのなんの大人気であった。

落語に「千両みかん」という噺がある。金持ちが夏、みかんを
探して、一つ千両で手に入れるというもの。神田多町から
須田町、連雀町あたりが江戸の青果問屋が集まる市場、
やっちゃばであった。以前に須田町交差点に[万惣]という
ホットケーキが有名で池波先生御用足しのフルーツパーラーが
あったが、この須田町、連雀町あたりは果物担当で、多町側が
野菜担当とちゃんと分かれていた。
また、水菓子は伝統的には江戸・東京の言い方で、
上方がくだものといっていたよう。

ともあれ。
うまかった、うまかった。

近江牛のすき焼き堪能。

もちろん、数寄屋造りの部屋もよし。

部屋で勘定。
二人で26,136円也。

ご馳走様でした。

 

今半別館

03-3841-2690
台東区浅草2-2-5

 

 

 

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