断腸亭料理日記2023
4273号
2月4日(土)第一食
立春、ではある。
多少、空気が変わってきたような気もするが、
今朝も寒かったし、昼間になっても11℃程度で
決して、暖かくはなかろう。
気象予報士は、変わっていく周期が早くなっている
といっている。これは春の訪れを意味するらしい。
だが、まだ寒いものは、寒い。
と、いうことで、今日は鍋焼きうどんを作ろうと
考えた。
紆余曲折したが、うまいものはできた。
東京にも鍋焼きうどんというものがある。
町のそばやにもほぼある。
味は、かけそばのつゆと同じしょうゆのつゆで
土鍋で煮込んだもの。
東京は基本はそば文化で、うどん文化ではないが
鍋焼きうどんだけは別である。
私も寒いとき、風邪っぽいときには、
若い頃から、そばやで食べていた。
なぜであろうか。
東京で鍋焼きうどんだけが定着しているのは。
まあ、うまいから、寒いときによいから、だと思うが、
では東京で一般化したのはいつ頃から、なのであろうか。
落語に「うどんや」という噺がある。
今はどうであろうか、あまり東京で演る人は多くは
ないのではなかろうか。
亡くなった小三治師が演ったようだが。
今となっては、内容的にはもう一つかもしれない。
ストーリーは、素焼きの安い今戸焼の土鍋で出す
鍋焼きうどんや、というのが登場する。
「時そば」のそばや同様の振り売り。
七輪もあって、熱いものを出す。
この振り売りの鍋焼きうどんやが、酔っ払いにからまれる。
「蜘蛛駕籠」のように、酔っ払いがまったく同じ話を
ぐるぐると話す。この噺はここが主。
だが、飛び切りおもしろいかといえば「蜘蛛駕籠」と
繰り返す部分も同じなので、まあバリエーション。
ただ、下げは秀逸である。私はこの噺でどこが聞きたいか
といえば、下げである。
噺に出てくるが、この鍋焼きうどんやは、雑煮も
出す(八代可楽師)。餅を焼いて、うどんの代わりに
つゆに入れるのであろう。簡単にできそうである。
で、この噺がいつからあるのかという問題である。
これは三代目柳家小さんが大阪から移したという。
(「落語の鑑賞」延広真治編)
同書によれば、夏目漱石が亡くなる20日前に三代目小さんの
この噺を聞いて笑いころげたという。漱石が亡くなったのは
大正5年(1916年)。
三代目小さん師は安政3年(1857年)生まれ、昭和5年
(1930年)73歳で没。
師は「らくだ」だったり上方の噺を多く移入しており
この「うどんや」もその例。先代小さん門下で世に
出るのは、明治25年(1892年)あたりから。少なくとも、
その後、であろう。つまり三代目小さん師が「うどんや」を
演り始めたのは明治30年前後以降ということになろう。
この噺を聞くと、先の雑煮の例など、鍋焼きうどんやの
描写は、創作、あるいは上方からの移入ではなく、
リアリティーがあるように聞こえる。実際にこういう
振り売りの鍋焼きうどんやが明治20年〜30年、明治中頃
から後期には、東京で既に一般的であったと考えて
よいと考える。
では、鍋焼きうどん、さらにさかのぼれないか。
天保から嘉永の庶民生活文化の基本文献「守貞謾稿」には
鍋焼きうどんは大坂、江戸ともにまだ出てこない。
文献上確認できる初出は元治2年(1865年)江戸市村座初演の
「粋菩提禅悟野晒(すいぼだいさとりののざらし)」という
芝居のよう。この芝居、舞台が大坂で鍋焼きうどんやが
登場し、近頃流行っているとの台詞がある。芝居の初演は
江戸だが、浄瑠璃なのかこれ以前の初演がありそう。
ともあれ、大坂では元治以前にということになるが、
(おそらく振り売りの)鍋焼きうどんが流行したらしい。
だが、この時点では江戸にはまだなく、伝播は東京になって
なってから、読売新聞の明治14年(1881年)に「鍋焼き饂飩
大流行・・・府下中に鍋焼饂飩を売る者が863人」というのが
あるよう。(槌田満文著「明治大正風俗辞典」)
ともあれ、明治0〜10年代には東京にも鍋焼きうどんやが
生まれていた。
まあ、そんなことで鍋焼きうどんは、明治から東京で
盛んに食べられており、私も子供の頃から食べていた。
東京でも伝統的食い物として認知してよいだろう。
さて、作る。
例によって、うどんは乾麺。
味噌煮込みはゆでた麺を洗わず、ゆで汁ごと
煮込んだが、今回は洗う。
そばやでは、いわゆるおかめそばのように、
いろんなものが入る。
多くは海老天、蒲鉾、甘辛く煮た椎茸、
生玉子あたり。(海老天が入るので1000円を
越すこともある。)
雷門[尾張屋]
海老天はむろんないが、鶏肉。
昨日のグラタン用に買ったもも肉がまだ一枚ある。
それから、干椎茸を戻して、一つなので簡単に
レンジで甘辛く煮た。このくらいは、入れたい。
深めの小鉢にお湯を入れ干椎茸一つをレンジで戻す。
30分ほど置いて、砂糖、しょうゆ、酒、みりんを
入れて、またレンジ。あふれないように気を付けながら
なん回かに分けて、レンジ加熱。
煮詰めたいがレンジなので、これはあきらめ、
ある程度味が染みるまで置いておく。
鍋に桃屋のつゆ、水、鶏、先の椎茸を入れ、煮込む。
鶏に火が通ったら、長く切ったねぎを煮込み、
ゆでて洗ったうどんも入れる。
軽く煮込んで、生玉子を落として、出来上がり。
名古屋よりも東京のものはうどんは煮込みすぎぬ方が
気分であろう。
落とす時に玉子が崩れてしまった。
あー、椎茸は、後でのせればよかった。
せっかく、甘辛くしたのに、つゆに味が
出てしまった。
十分うまい。
そして、温まる。
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