断腸亭料理日記2023
4279号
2月13日(月)夜
さて、江戸前が続くようだが、今日は
ご近所、三筋の天ぷら[みやこし]。
予約はしてあり、18時。
内儀(かみ)さんと徒歩で向かう。三筋湯の少し先。
5分ということはないが、10分はかからなかろう。
三筋町というのは隣町といってよい。
私の住むのは、元浅草でも旧町は七軒町。
その七軒町の東隣りの町会は今は元浅草三丁目
といっているが、少し前までは三筋北といっていた。
旧町名も北三筋町。
これは明治40年の地図。
[みやこし]の位置と思われるところに星印を入れた。
毎度書いているが、江戸期の三筋は幕府役人の組屋敷がある
武家地で南北に三本の筋があるので、三筋と通称した。
明治になりこの部分が西三筋町、東三筋町となり、北側も
北三筋町となっている。
ついでだが、東三筋町は作家どくとるマンボウ北杜夫の父、
昭和の大歌人斎藤茂吉縁(ゆかり)の地である。
「三筋町界隈」というエッセイが残っている。
明治29年(1896年)14歳で山形から上京し医師を目指すため
養父の家、浅草医院に住むことになる。それが町内にあった。
今、三筋保育園になっており、園の小さな庭に不釣り合いの
立派な石の歌碑が立っている。
浅草の三筋町なるおもひでも うたかたの如や過ぎゆく光(かげ)の如や
(「つゆじも」所収 昭和21年(1946年)刊)
この界隈、今もそうだが意外に医院が多い。
ともあれ天ぷら[みやこし]。
入ると、カウンターにサラリーマンらしい三人組。
ご主人と女将さんに挨拶をして、カウンターの一番奥へ。
ビール。
サッポロのラガー。
お通しは、比較的ここでは多いが、もずく酢。
細いものでよい。
頼むのは、いつも通り7,700円の特の定食。
形通り、海老から。
小型の車海老、さいまき海老、などともいう。
鮨や、一昨日の[美家古寿司]で使うものよりは
多少小さいか。
天ぷらは小さいものの方が、うまいのかもしれぬ。
一つは、塩で。
塩で食べても、むろんのこと油くささは一切ない。
もう一つは、天つゆで。
これも、形通り、頭もごく薄い衣を付けて
揚げる。
サックサクで、香ばしい。
次は、きす。
あー、そういうえば[美家古寿司]では
いつもあるきすが、なかった。
一般的にきすは、天ぷら以外に使わない魚だが、
やはり江戸前を代表する魚であろう。
小ぶりなもの。
身がしっかりしており、うまい。
最近、吉池ではあまり見ないような気もする。
ありふれた魚であったと思うが、
あまり獲れていないのか。
こうして、料理やにしかまわらないのかもしれぬ。
いか。
これも江戸前を代表する、すみいか。
まったく、江戸前の天ぷらと鮨は、種がほぼ同じ。
塩でもよいかもしれぬ。
サクッとした歯応え。
噛むと、あまみが広がる。
さて、これ。
めごち。
これは、ほぼ天ぷらでしか食べないか。
めごちは、自分でもさばいたことがあるが、
こうして、尻尾だけつながった状態にする。
いや、する、というよりは、こうなってしまう
といった方がよいか。
魚の最後は、穴子。
江戸前天ぷらでは、一本で揚げるのが普通。
それで、大きなものではなく比較的小ぶりのもの。
鮨の煮穴子は断然、太いものがうまいが、好対照である。
目の前で、金属の揚げ箸でサクッと半分に切ってくれる。
手際がおもしろいので、自分でやってみたことがあるが、
まったく切れなかった。
白身のようだが、きすやめごちのようなものとも
また違う、穴子らしい香りとうまみ。
煮穴子とはまったく違ううまさである。
魚はここまで。
以前、江戸前の天ぷらは魚以外は揚げなかった、
と、蔵前[いせや]の先代親方が言っていた。
むろん、野菜天もうまいものである。
椎茸、アスパラ、蓮根、銀杏。
皆定番であるが、どれもうまい。
最後は、ご飯だがいつも通り、天丼。
かき揚げは小柱。
味噌汁は、蜆の赤だし。
二人で18,370円也。
ご馳走様です。
いつもありがとうございます。
おいしかった。
台東区三筋2-5-10 宮腰ビル1F
03-3864-7374
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