断腸亭料理日記2023

浅草・弁天山美家古寿司 その2

4278号

引き続き、浅草の弁天山[美家古寿司]。

つまみ二品と、にぎり、いか、白身。
光物、小肌、鯵ときた。

光物は、好物。

あるものは全部食べたくなる。

さより。

これも美しいではないか。

〆てあるが、鯵よりも強めか?。
いや、もともとさよりは光物というが、白身のように
淡泊。同程度、かもしれぬ。

鯖もケースの中にあったが、どうしようか。

まぐろにしよう。

赤身。

きれいに光っている。
うまみ濃厚な赤身。

こんなのが、ありますよ、と出してくれた。

いわゆるネギトロに使う、骨のまわりの
スキミ、というのか、あれ、かと思ったら、
そこではなく、カキミ、というらしい。

まぐろの腹側の身。
普通大トロの部分であるが、その身を取った後の
皮から身の残りを、掻き取ったもの、とのこと。
ウマイわ。

そして、ヅケ。

中トロ、で、ある。

練れた味。
濃厚で極上のうまみ、で、ある。

最近、他の鮨やにあまり行かなくなってしまったが、
このまぐろ中トロのヅケのレベルは高いのではなかろうか。

平目の昆布〆だったり、酢〆の小肌だったり、種に仕事を
施すのが、古くからの江戸前“仕事”である。
その江戸前“仕事”をポリシーとするこの店。

ヅケというのはまぐろのしょうゆ漬け。
まぐろを保存するために幕末の江戸の鮨やで
発明されたものである。
一般には脂のあるトロではなく、赤身をヅケにしてきた。
漬けていない赤身自体をヅケといってもいたほど。

今も中トロのヅケはあまりないのではなかろうか。
脂のあるところを漬けてしまうのはもったいなかろうし
合わないのでは、とも思う。
漬けるしょうゆのつゆの濃さということもあろう。
生のしょうゆにまぐろを漬けるのであれば、
5分もあれば漬かってしまう。
この加減、で、ある。

中トロをうまく漬けるには試行錯誤があった
のではなかろうか。

海老。

これは内儀(かみ)さんの希望。

むろん、おぼろをはさんだもの。

おぼろというのを食べたことのない方はおられようか。
東京の江戸前仕事を看板とする一流店ではまあ、
置いていると思われる。
白身魚や、芝海老などの身をほぐして甘くしたもの
今は見なくなったが、デンブという甘いふりかけ
のようなものがあったが、あれに近いもの。

海苔巻に入れたりもするし、小肌だったり酢〆の
種にはさんだりもする。

海老は甘酢に漬けているので、おぼろを
はさむネタになる。

蛤。

いわゆる、煮はま。
甘辛く煮て、甘いたれも塗る。

大きなものである。
蛤もこのくらいになれば、そうとう高価、
であるが、煮はまであれば、大きくないと
やっぱり寂しい。

さて、そろそろ、お仕舞。
海苔巻。

かんぴょう巻。

内儀さんの希望で、もう一本。

ちょっと変わっているが、光物を巻く。

これは、小肌。

小肌とガリと紫蘇の葉。
いわしや鯵でもできる。
鰯巻、鯵巻。

いつ頃からあるのかわからぬが、
さっぱりと、乙な細巻、で、ある。

私は、まあ、どちらでもよいが、
内儀さんの希望の、玉子焼きのみ。

おぼろもたっぷり塗してくれた。

この玉子焼きも、ご存知の通り、江戸前仕事。
今の鮨やの玉子焼きは、ちょっと出汁巻き風の
甘い厚焼き。

玉子がまだ高価だった時代、おそらく明治の頃、
増量のために、白身や海老をほぐしたものを
加えていた。
味は、ご存知の伊達巻のようなもの。
今ではむろん、こちらの方が手間も材料費も
掛かる。

うまかった、うまかった。

ご馳走様でした。

これでお仕舞。
勘定は二人で25,300円也。

 


弁天山美家古寿司

台東区浅草2-1-16
03-3844-0034

 

 

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