断腸亭料理日記2023
4460号
12月1日(金)夜
さて。
12月になった。
暖かかったり、寒かったり、寒暖差は日々あるが、
まあ、木枯らしというのは、まだかもしれぬが、
12月、初冬らしい気候になってきた。
と、なると、鍋。
やっぱり、ここにこなければいけなかろう。
あんこう鍋の[いせ源」。
天保元年(1831年)創業という。
江戸後期。
今年で、192年。
押しも押されぬ、大老舗といってよいだろう。
場所は神田須田町。
以前は連雀町。
その昔、今の中央線の始発駅が万世橋に
あったため、駅前としてにぎわっていた。
また都心部で奇跡的に、東京大空襲で焼け残った
地域で、少し前まで、戦前、関東大震災後の
街並みが色濃く残っていた。
それで、にぎわっていた頃の老舗が残りやすかった
ということが言えるだろう。
ここの店舗も歴史的建造物に指定されている。
界隈にもまだなん軒かその名残を見ることも
できる。
今は、かなり高価な店になっているが、
座敷だが、個室ではなく入れ込みで、帳場で勘定。
わりに庶民的な店であったと思われる。
京都などと違って、コースで出す老舗の
いわゆる懐石、会席、割烹料亭の老舗というのは
東京には多くはない。
京都と違ってそういう文化がなかったのか、
とも思われようが、そうでもない。
江戸、東京にもちゃんと会席、割烹の料亭
というのは、あった。
むろん、江戸は将軍様の住まう首府。
一時は、世界一の人口を抱えていた。
[八百善]
なんという名前を聞いたことが
ある方もあるかもしれぬ。
浅草北部、山谷にあった江戸・東京を代表する
料亭である。
[八百善」はペリー来航時、彼らへの饗応膳を
作ってもいる。
また、落語「百川」に登場する料亭は[百川」と
いう名で、日本橋浮世小路に実在していた。
江戸東京には江戸東京の味と技はちゃんと
あったのである。
だが、江戸起源の料亭は、明治終わりから、大正
の頃までに、ほぼ滅んでしまった。
原因は京都や大阪、上方の料亭が東京に進出し
また、関西の料理人も流入し、駆逐されてしまった
ということ。
なぜか?。
関西の料理の方が、残念ながらうまかった、
のである。
元来、江戸周辺は関東ローム層、赤土で上方ほど
うまい野菜ができなかった。
それを補ったのが、野田・流山、銚子で生まれた
うま味の濃い濃口しょうゆ。
まあ、それでかわりににぎり鮨、うなぎ蒲焼、
天ぷらが発達した。そんな風にもいえるかもしれぬ。
ともあれ。
江戸、東京に起源のある食い物やは、うなぎ、すし、
天ぷらやが主体でむしろ[いせ源]などは例外的
といえよう。
皮肉な話だが、そう高級な料亭ではなかったから、
生き残れた、ともいえるのかもしれぬ。
閑話休題。
以前は予約はできなかったが、最近は予約可に
なったのはありがたい。
予約を受けぬのは庶民的な店であったことの
名残であったのかもしれぬ。
17:30の予約で、到着。
このメインの二階家が有形文化財。
玄関。
右側のショーウインドー。
氷に覆われたあんこう。
最近はこうして下にあるが、以前は
上のフックにぶら下げられていた。
硝子戸を開けて入る。
下足のおじさんに名乗り、下足札を受け取り
靴を脱いで、あがる。。
梯子段を昇り、お二階へ。
あれ、一番乗りのよう。
お膳へ。
赤い塗りのお膳にガスコンロ。
火の付いているものもある。
これは、部屋の暖房のため。
今日は二つ置き程度だが、真冬だと、
全部がついている。
下足札は五十九番。
瓶ビール。
注文は、鍋二人前。
その他の一品料理も色々あるが、最近は
鍋だけでよいようになってきた。
お通し。
おひたしといってよいのか、菊としめじと
ほうれん草。
そして、待ってました。
あんこう鍋。
つづく
千代田区神田須田町1丁目11番地1
03-3251-1229
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