断腸亭料理日記2021
3867号
5月31日(月)第一食
近くについでがあり、寄ってみた。
その前に今日はまず、先日から、ちょっと宿題であった、
蔵前のこと。少し考えてみたので、書いてみる。
(このあたりのことNHKの講座で一度書いている。)
現代
なにかというと、いつから「蔵前」と言われているのか。
そもそも、前にも書いたが旧幕時代は、幕府の
米蔵で、浅草御蔵という施設があったわけである。
その前町(まえまち)は浅草御蔵の米を金に替え、
旗本に渡す札差が軒を連ねていたわけだが、その一番南に
あったのが、小さな御蔵前片町。森田町など札差の町は
ここから北へ続いていたわけだが、蔵前の町名の元は
御蔵前片町になろう。
一方、今、蔵前というと住居表示は一丁目から四丁目
で範囲は広い。
一丁目は江戸通りの東で、蔵前橋通り以南。
元の御蔵前片町と、浅草御蔵の南端にあたる一角。
いや、それは正確ではない。
御蔵前片町は本来、通りの西側であるが、
蔵前一丁目は通りが境で西側は浅草橋に
入っている。
本来の御蔵前は蔵前ではなくなっている、
という奇妙な状態かもしれぬ。
蔵前二丁目は蔵前橋通りの北、春日通りの南、江戸通りの東。
三丁目は春日通り、国際通りで囲まれた三角形。
四丁目は春日通り、新堀通り蔵前橋通りで囲まれた範囲。
明治の地図を見てみよう。
明治40年である。
浅草御蔵は新政府に接収されて、様々な施設に
なっていったわけである。
一番南が東京工業学校。今の東工大。
ここが町名は御蔵前片町。
その北側は広く、元の御蔵が全部浅草南元町という
町名になっている。これは明治になって作られたものだろう。
ここに、厩橋税務署、大蔵省米庫。地図には書かれて
いなかったので加筆したが、専売局第三製造所があった。
専売化された煙草の工場である。ちなみに、どれも大蔵省管轄。
厩橋というのは春日通りでもう少し北だが、こんな南で
厩橋税務署というのははいささかヘンである。
今の浅草税務署の前身。
さらに煙草工場の北側は今の東京電力の前身の一つの
電燈会社の火力発電所である、浅草発電所。
(これはその後、北千住へ移り、あのお化け煙突になるのだが。)
これ以外の、主に今の蔵前三、四丁目範囲の小さな町々は、
明治期は、大方、江戸からの町名のまま。
そして、頭にすべて浅草をつけていた。
(当時浅草区の町名には多く浅草を冠していたが。)
現、蔵前一から四丁目になるのは、関東大震災後。
結局ここまでは、蔵前という地名、呼び名は
御蔵前片町にしかなかったのではと考えている。
先の、東京電燈会社の浅草発電所という名前。
このあたりが、蔵前と、明治期既に呼ばれていたのであれば、
浅草ではなく、蔵前発電所といっていたのではなかろうか。
やはりここは蔵前ではなく浅草であった。
蔵前という行政区画上の町名になり、おそらく徐々に
蔵前という名前は定着していった。
その、最も大きな要因は、蔵前国技館ではなかろうか。
蔵前国技館は両国にあった国技館が戦災で焼けて
戦後にできている。今の下水道局施設の場所。
私の子供の頃もまだ、相撲は蔵前国技館であったが、
兎にも角にも戦後、日本中に蔵前の名前が広められた
といってよいだろう。
だが一方、こんなこともある。
現代の地図にマークを入れたが、蔵前三丁目、
春日通りのすぐ南、国際通りの東の三角地帯に
蔵前神社という名前の神社がある。
落語家は落語「元犬」の舞台などとも言っている。
ここは江戸期から石清水八幡であった。
明治になっても同じ名前。浅草八幡町という町名にも
なっていた。
今の、蔵前神社という名前になったのは1947年(昭和22年)
という。これももちろん戦後。
先の蔵前国技館ができたのは1949年(昭和24年)。
2年の差がある。
国技館以前に既にここは蔵前三丁目で、神社の名前を
蔵前神社にかえてもまあ、よいのだが、古くからある
八幡様の名前を外すほど、既に蔵前という名前が
一般化していた、ということになるのかもしれない。
(圓生師の「松葉屋瀬川」では“蔵前八幡”という中間的な
呼び方をしているのが興味深い。また、未考察だが、
戦後、世の中が変わり、神社の名前を替える
というのは、意外にあったことではなかろうか。)
結局、なにが言いたいかというと、蔵前という地名は
そう古いものではないということである。
国技館によって、全国区になってしまったので、
今はあたり前のようだが、たかだか震災後なのである。
江戸でもなんでもない。
御徒町が駅名になったおかげで町名から消えても
今もしっかり残っている。ここから御蔵前が、蔵前に
なって残っている、のはヘンである、という私の
問題意識であった。
結局、震災後に行政区画上の名前を蔵前にしたことで
新たにできた町名と考えた方がよい。
由来は浅草御蔵の前町ではあることは間違いなかろうが、
こうなってはほぼ無関係である。
地名の変遷というもの、興味深い。
さて、おまけのようになってしまったが、
蔵前[元楽]総本店。
特製元ラーメン。
しっかりした腰のある麺。
以前は、この背脂こってりが、あまく感じていた。
動物性の脂が多すぎると、人間はあまく感じるようである。
最近、少しくる機会が増え、慣れてきた。
うまいもんである。
台東区蔵前2-12-3
03-3851-4537
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