断腸亭料理日記2017
今日は、ちょっと変則であるが、私の考える、
うまいもの、まずいものについて書いてみたい。
普段考えていることなので、既にご案内の方も
多いかもしれない。
我が身を振り返ってみると子供の頃、青年期、20代、30代、40代、
そして今、考えてみると、その嗜好も随分と変わってきているのを
感じる。
食べ物の好き嫌いといってもよいかもしれない。
今、パクチーなど積極的に食べたくないものは数少ないがあるにはある。
しかし、まったく食べられないものというのは、私はほとんどない。
では、なにが好きですか、と聞かれれば、うまいもの、と答え、
なにが嫌いですかと聞かれれば、まずいもの、と答えている。
(好物はなんですか、といわれればチキンライス、うなぎ、天ぷら、
鮨、資生堂パーラーのクリームコロッケ、鴨せいろ、並木藪の天ぬき、
まあ、枚挙にいとまがないので、やめておく。)
ともあれ、もう少しきちんと書くと、この世にはうまくこしらえたものと、
うまくこしらえられなかったものがある、ということである。
つまり、人が食べるものである、本来まずいものは
存在せず、なんらかの理由でうまく作られなかった
食べ物がある、ということである。
材料、素材そのものに起因するもの、下ごしらえの問題、
素材どうしの組み合わせ、調理、調味の巧拙などによって、
うまいものと、そうでないものが生まれてくる。
私自身、子供の頃は好き嫌いは多かったかもしれない。
ご多分にもれず、にんじんはダメだったし、
椎茸も妙な食感と匂いが苦手であった。
あるいは、例えば、高野豆腐。
あれなども、そのものはほとんど味はない。
ほぼ煮含ませたつゆの味で、なぜこんな食い物が
存在するのか、20代あたりまで、理解できなかった。
しかし、これら、年を取るに従って、食べられるようになり
また、うまいと思うようになってきた。
ポイントは、それらの最もうまいものを食べるという
こと。それは、なにも最高級なところで、最高級なものを
食べるということではない。
食わず嫌いをせずに、出てくるたびに味わって食べる。
そのうちにうまいと思えるものに出会えてきた。
こうなってくると、うまいもののハードルは随分と
下がってくるのである。
ほんとうにまずいものというのはそうは多くない。
そして、ほんとうにまずい食い物やというのも、
そうは多くないと思うのである。
では、今度は反対にべら棒にうまいものというのは
この世にあるのか、ということを考えてみたい。
結論をいうと、これはある、と思っている。
例えば、利尻のばふんうに。
素材そのものであるが、あれはうまい。
むろん鮮度、処理方法などにもよるのだろうが、
雑味、えぐみがなく、クリーミーで濃厚。
あるいは、麻布[野田岩]のうな重。
吟味された素材を、積み重ねられ磨かれた技で
調理、調味された職人仕事の傑作。
芸術品でもあろう。
フレンチでもイタリアンでも中華でも、こういう料理、あるいは
料理人、店は一にぎりであるが存在する。
問題は、それらを騙る、取り巻きである。
べら棒にうまいものの周辺には様々な情報、ウンチクが
あふれ、またそこにたずさわっている人々がいる。
食いもの本体ではなく、情報であり、人である。
結局、これらが独り歩きをし、人々は騙されてしまう。
産地のブランド化というのも然り。
どこどこのものであるから、無条件でうまいと
思ってしまう。
あるいは、グルメといわれている芸能人がいっているから。
こんなものばかりではないか。
もちろん、その中に本当に、べら棒にうまいものも確かにある。
しかし、有名産地のものを使えばうまいのかといえば、
必ずしもそうではないはずで、産地でも季節があり、
優劣があり、鮮度もあり、料理人の下ごしらえの仕方もあり、
料理の技もむろんある。
結局目の前に出てきた料理が、情報を抜きにして、
べら棒にうまいのか、そうでもないのか、それに尽きる
のである。
誰かさんがいっていたからではなく、自分の舌で食べて
格別にうまいかどうか。(その対価を払ってしかるべきか。)
そういうことであろう。
鮨やでもどこでも、私は産地などはわざわざ自分からは
聞かないことにしている。
どこどこのものだから、うまいだろ、という料理人は
まあ、あまり信用しないことにしている。
なにもいわずに出したもので勝負している料理人を信用すべきである。
無名な店でも、無名な産地でも、安くともうまいものは
数多あることは、いうまでもなかろう。
前から言っていることだが、この取り巻きに騙されないように
したいものである。繰り返すが、頼れるのは人の言葉や情報ではなく、
自分が食べてうまいかどうか。それ以上でもそれ以下でもなく、
それでいいのである。
しかし、そうはいっても、情報に乗せられて、味もわからず(?)
高い金を出す人がいるわけである。
これは出したい人は出せばよいとばかりはいえないと思うのである。
不必要に価格が上がり本当に食べたい人が食べられなくなったり、
魚介類などでは獲りすぎて資源が枯渇してしまうということにもなる。
まあ、いずれにしても実体とは違うもので彩られたものは、
いずれ消えていく。食べる方にも、作る方にも空虚なことである。
そして、なにより内容ではなく値段の高さで満足感を買う姿勢は
卑しいことであろう。
さて、これら図にしてみるとこんなことであろうか。
一にぎりのべら棒にうまいもの、べら棒にうまい店があって、
その下、取り巻きに騙るもの、騙る店があって、騙る人がいる。
その他ほとんどは、うまいもの、うまい店と考える。
むろんその中で、優劣はあるが。
この議論、伝わったであろうか。
まずい店寸前のうまい店は、限りなくまずい店ではないのか、
という問いがありそうである。
ただ、それも、例えばある一人がうまい店といっているのなら
それはうまい店のでよいのではないかということなのである。
(そういう店は、まずい店同様数はわずかであろうが。)
まあ、考え方の話しである。それだけ相対的で、主観的なもの
だから、である。
さらに付け加えると、うまいものと、好きなものは別である。
念のため。
さらに、ではなにが言いたいのかという声が聞こえそうだが
それは次号につづく。
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