断腸亭料理日記2017

駒形・うなぎ・前川

9月3日(日)夜

日曜日。

うなぎ、で、ある。

日曜日にうなぎとなると、浅草ではちょっと選択肢が
狭まる。
もちろん、なん軒も浅草にはあるのだが、私が行きたいと
思う店で開けているところが限られる。

本当はごくご近所でお知り合いでもある小島町[やしま]に
行きたいのだがお休み。

そこで駒形の[前川]。
ここは年中無休。

池波先生は子供の頃、浅草永住町(今の私の住む、元浅草)の錺職の
お祖父様の家で育たれたのだが、よくそのお祖父様に連れてきてもらった
という。
それで池波レシピである。
だが、賛否のある店ではあるのも知っている。
慣れないとちょっと敷居が高いのか。
私も以前は多少そんな感じも抱いた頃もあった。
だが、最近では、私は、好きなうなぎやになっている。

特に、下町の老舗というのは難しいもので、どうしても敷居は
高くなりがちなのであろう。
私など、別段顔を憶えてもらっているということもないが、
よくきている感じが伝わるのかもしれない。

うなぎがうまいかまずいか、ということはまず第一であるが
一定水準以上の店で比べると、結局、お客として
居心地がよいかどうか、である。
店側でも同じようなことがきっとあって、まあ、相性
ということなのであろう。
また山手の店に比べて、下町ははっきりしているところが多い、
のかもしれぬ。
山手であれば、どんなお客にも同じように接するが
下町は必ずしもそうでなかったりする。
(下町では、どんなお客にも平等に、無愛想、まあ、飾らない
ということだが、そんなところも意外に少なくないが。)

日曜の夜、そう混んでいないと思うが、TELで予約を入れておく。
これは必須である。
席を確保しておくという意図もむろんあるが、それだけではない。
フリのお客と、予約の客とは自ずと扱いが違う。
特に、ここはそうかもしれぬ。

少し早い5時に予約。

内儀(かみ)さんの足が依然イマイチなので、タクシーで向かう。

駒形橋西詰めの交差点で降りて、店に向かう。

今日はそこそこ暑かったので、短パンにTシャツ。
足元は、素足に雪駄。

この雪駄は、着物を着る時には履いているものだが、
履き古しではなく、そこそこ新しいもの。
私の雪駄は浅草ひさご通りの[まつもと]と決めている。
裏は皮で表は竹皮。鼻緒は皮(印伝?)。
そこそこちゃんとしたもので、値段は意外にする、のである。

裏にはチャラチャラとよい音がするように鋲を打ってある。

食い物やに行く時の格好というのは、やっぱり大切である。

足元を見られるというが、上はラフでも履き物は
よいものを。
浅草のうなぎやの老舗[前川]なので、よい雪駄。
まあ、そんなところである。

店の玄関に入って、名前をいってお二階へ。

二階の広間。
中央窓際のお膳。
隅田川と、スカイツリーのよい眺め。

座って、ビール。

白焼き一人前と、うな重。
それから、うな重のお新香にも付いてくるのだが、
からし茄子も。

からし茄子。

茄子は小茄子だと思うが、刻んである。
かなり辛い。これがうまい。

品書きにも載っているが、なぜだか必ずある。
こんな漬物がピンポイントであるのは不思議ではある。
自分でも買うくらいで、好きなのでもらってみた。
しかし、なぜ必ずあるのであろうか。
ご主人の趣味か。

白焼きがきた。

キリッと、わさびじょうゆで、つまむ。
やっぱり、うまいもんである。

東京の一流のうなぎやではまず置いているし、
どこも、うまい。
東京のうなぎやの矜持であろう。
半端なところだと、生ぐさい。

お重、肝吸い付き。

お新香に、先ほどのからし茄子もは入ってはいる。

山椒をふって、食べる。

このところ、あまり他のうなぎやへ行っていないかもしれぬ。
それで、なんとなくスタンダードになっている。

浅草のうなぎ蒲焼の味は、どちらかといえば、甘みをおさえた
さっぱり、きりっとした味が主流であろう。
ここもその例だが、その中でも、ノーマルというのか、
バランスが取れた味。

焼き方に特徴があるのは、麻布[野田岩]であろうか。
ふんわり、かなり香ばしい。
ここの焼き方は、ふんわりではあるが、
香ばしさが立ったものではないか。

どっちにしても、うまい、うまい。

食べ終わり、水菓子はグレープフルーツ。

ご馳走様でした。

ここは下へ降りて、玄関で勘定。

女将さんであろうか、着物を着た女性。

並べられた私の雪駄を誉め、つっかけて、
チャラッと音がなると、それも誉めてくれた。

わかってくれる人がいると、
やっぱり、うれしいものである。

 

 

前川

 

    

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