断腸亭料理日記2017

上野・とんかつ・井泉

7月6日(木)夜

しばらく来ないと、食べたくなる。
上野のとんかつ[井泉]、で、ある。

しばらくというのは、どのくらいかと思って
調べてみると、今年の4月であった。

このくらいのインターバルはちょうどよい
かもしれない。

ただやはり、定期的にはきたいところ、で、ある。

とんかつが食べたいというのはどんな時であろうか。

やはり、肉が食べたい、という時である。
肉が食べたい、という時に、とんかつになる
というのは、私が東日本の人間だからであろう。

肉が食べたいという時に、牛肉、例えば、ステーキ、
あるいは焼肉、すき焼き、という場合もあるが、とんかつよりも
ずっと特別感がある。

魚ではなくて、肉だな、という時に、すぐに
頭に上ってくるのが、とんかつ、というような
位置付け、かもしれない。

幸い、私が住む、上野・浅草というところは
とんかつやに恵まれている。
それも、老舗、名店がたくさん。

なん度も書いているが、神話ではあるが、
上野はとんかつ発祥の地、などと言われている。

選択には困らない。

池波先生はとんかつが大好物であった。
上野(浅草)界隈の老舗、名店にもたびたび
足を運ばれてもいる。

また、東京とんかつ会議を主宰されていたかの山本益博氏。
むろん、氏も大好物であろう。

池波先生は今、私の住んでいる元浅草(永住町)で育たれたし
益博氏も浅草の生まれ育ち。

これは無関係ではあるまい。

にぎりの鮨も、うなぎの蒲焼も、上野・浅草、
故郷の味といってよいと思うが、とんかつも
やはり、故郷の味なのではなかろうか。
益博氏のとんかつについて書かれているのものを
読むとそんな気がしてくる。

東京の他の街ではとんかつやというのは、
ここまで集中はしてない。
銀座、日本橋、あまり聞かないであろう。

とんかつは、そこまで上品ではないのである。

新宿がとんかつやの老舗、名店がちょっとあるのが
おもしろいかもしれない。
時代の問題もあるかもしれぬ。
昭和初期から戦後昭和30年代あたりまでか。
この頃に発展した新宿。

とんかつはもう少し早い、明治末から大正、昭和初期に、
定着したと考えているが。

ちょっとだけずれているが、その頃、庶民の街として
栄え始めたのが新宿であったといってよいだろう。

むろん、上野・浅草も今も昔も庶民の街。

とんかつは庶民のもの。
そういうことになろう。

ともあれ。

[井泉]、で、あった。

御徒町駅で降りて、広小路交差点。
渡って、少し行って左に路地を入る。

道なりに右に折れて、左の角が[井泉]。

7時半。

暖簾を分けて入る。

意外にすいている。

カウンターの奥に一人。
左の奥にもう一人。

テーブルに一組。

カウンターの真ん中、ちょうどとんかつを切る
まな板の前。

ビール。

キリンの瓶。
お通しはなし。

ここへくると、もう頼むものは、決まっている。

カニときゅうりのサラダと、特ロース、

ご飯と豚汁はなし。

むろんきらいなわけではない。
できたら、豚汁は飲みたい。
控えているのである。

ビールを一杯。
こう暑くなると、文句なく、うまい。

サラダがきた。

カニの肉と、きゅうりのマヨネーズ和えなのであるが、
いつも書いているが、このきゅうり。

このきゅうりの食感が素晴らしい。
パリパリ。

どういう下拵えをしている、のであろうか。
皮部分だけを薄く切って、水に晒しているのであろうか。

特ロースもきた。

からしを皿の脇に取り、キャベツととんかつに
たっぷりとソースをかけまわして、

食べる。

これは意外に、脂身がある、のである。

特ロースとノーマルなロースの違いはなんであろうか。

並べて比べて食べたことはもちろんないので、わからないが
大きさ、厚み、肉質も違うのか。

おそらく大きさは間違いなく、特の方が大きい。

柔らかさは、どちらも“箸で切れる”がこの店のウリ
なので、変わらないか。

パン粉、衣も、揚げあがりも、ここのは特徴的だが、
これは同じであろう。

やはり、肉質か。

なんとなく、惰性で“特”を頼んでいたような気がしてきた。

今度はノーマルに戻してみようか。

うまかった。

御馳走様でした。

勘定をして、出る。



井泉本店

文京区湯島3-40−3
TEL 03-3834-2901



  

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