断腸亭料理日記2017
7月9日(日)第一食
日曜日。
ヅケのまぐろが食べたくなった。
理由はなにかのTVにちょいと出てきたから。
うまいもんである。
まぐろヅケというのは、本来は赤身のまぐろを日持ちさせるために
しょうゆに漬けたということ。
まぐろ自体を食べるようになったのはいつ頃からなのであろうか。
日本全国、まぐろというのはいたるところで漁がされている。
ただ水揚げされる漁港は決まっている。
青森の大間、三陸だと塩釜、関東だと三浦半島の三崎。
静岡は焼津、清水。このあたりは冷凍も含めて世界中のまぐろが
水揚げされる。
それから紀伊半島、那智勝浦。高知県も意外に水揚げは多い。
鹿児島は串木野。沖縄も揚がっている。日本海へきて、壱岐。
鳥取境港、富山湾でも揚がるか。
日本全国で獲れたので、歴史的には常時狙って獲って食べていた
のではないと思うが、地元では獲れた時には食べる、ということで
あったのではなかろうか。
江戸期、焼津などでは鰹漁は盛んで、江戸ではご存知のように
初鰹が珍重されたため、早舟で運ばれていたし、また、
その保存技術としての鰹節が生まれている。しかし、まぐろについては
やはり積極的には獲られていなかったようである。
ただ、思いがけず大漁のこともあり、そうした時には、
塩漬けしに、流通していたようである。
塩まぐろ 取り巻いている嬶(かか)ァ達
(「大都市江戸の四季折々の「おいしい生活」」中江克己 2008)
こんな川柳があるようである。
“嬶ァ”というくらいで長屋のお内儀(かみ)さん
連中なのであろう。
塩漬けのまぐろ、どんな味だったのか。
いずれにしても日持ちのしない大きな生のまぐろは、
扱いにくかったのではなかろうか。
また、落語には「ねぎまの殿様」というのがある。
ねぎとまぐろのしょうゆ味の鍋、で、ある。
噺は「目黒の秋刀魚」のバリエーションのようなもので
雪の日に殿様が雪見に馬に乗って本郷から出かけると
下谷の広小路で屋台の煮売りやで熱々のねぎま鍋と燗酒を
やって、たいそう気に入るというもの。
常時大量に出回っているものではなかったと思うのだが、
文化7年に日に千二百も魚河岸にあがった記録があるよう。(中江・前記)
こんな時に安い煮売りやなどに出回っていたのであろう。
ただまだ刺身で食べるようなものではなかった。
そしてヅケというのはその後江戸時代の内に既に生まれていたようである。
文化よりも20年ほど後の天保年間という。
やはり大漁のことがあり、この時、馬喰町の[恵比須ずし]という
鮨やで、日持ちがするようにしょうゆ漬けにしたものを売り出したのが
流行したという。(「美味にて候-八百八町を食べつくす」
産経新聞文化部 2006)。
この記述は出展が明示されていないので、ちょっと?がつくか。
ただ「守貞謾稿」という天保から幕末にかけての風俗事典のような
ものには鮨種に、まぐろが出てくるので、天保以降には
おそらくヅケにしたまぐろのにぎり鮨は既にあった、のは
間違いなかろう。
このヅケは、赤身。
なぜかというと、脂のあるトロはしょうゆが染みにくいので
ヅケには向かない。(ただ中トロくらいであれば、もったいないが、
ヅケにしてもうまい。)
また、脂っこいものは避けられたともいわれている。
トロがにぎりの鮨になるのは、大正の頃、日本橋の[吉野鮨]
が元祖という。
ともあれ。
ヅケであった。
先に、漬けだれを作る。
いわゆる鮨やの符丁でいう、ニキリ、で、ある。
酒としょうゆを半々くらいであろうか。
鍋で一度沸騰させてアルコールを飛ばし、冷ましておく。
ヅケなので、安い解凍ものの赤身でよい。
近所のスーパーへ買いに出る。
サクの場合と切り身で作り方が違うが、
切り身でよいだろう。
ワンパック買ってくる。
地中海マルタ産。養殖とは書いていなかったので天然の冷凍か。
ヅケまぐろには、わさびは必須。
あの組み合わせがうまい。
本わさびくらいあったらと思ったが、
なかったので、あきらめ。
切り身を全部たれに漬ける。
切り身になっていると、すぐに漬かって、食べられる。
まあ、2〜3分、長くとも5分までである。
逆にこれ以上長く漬けると、とてもからくて食べられない。
長く漬ける、冷蔵庫などでストックすることが目的であれば、
たれを水などで薄める必要がある。
サクの場合はどうするか。
プロはこっち。
サクの表面を熱湯を掛けて、霜降りにする。
すぐに冷やし熱の入りを止めてこれをたれに漬ける。
霜降りにする理由は、聞いたわけではないので、確かな
ことはわからないが、私の推測では、ヅケにすると
表面がどす黒くなる。これは、あまり食欲を
そそらない。また、表面に火を通すと、たれが染み込むのに
時間がかかる。こんなところではないかと思っている。
まぐろ以外に、めかぶ、もろきゅう用のミニきゅうりも
買ってきた。
ちょいと居酒屋チック。
ヅケに、わさびをつけて、食べる。
うまいもんである。
ヅケというのは食べたことがある方はおわかりであろうが、
単なる日持ち、だけではなく、確実にうまくなる。
あまみが増えるのではなかろうか。
近海の生のものはもったいなかろうが、
今でも確実に、安いまぐろ赤身の、うまい食べ方、で、ある。
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