断腸亭料理日記2015

松が谷・ふぐ・牧野 その1

11月29日(日)夜

さて。

そろそろ鍋の季節、で、ある。

日曜日に外で鍋を食おうとすると、ちょっと選択肢が狭まる。

12月になると土曜日、神田須田町の[伊勢源]が
店を開けているのだが、11月だとまだ日曜休み。
同じく、須田町の軍鶏鍋の[ぼたん]も日曜は休み。
東日本橋のあひ鴨一品[鳥安]も同様。

両国のしし鍋[ももんじや]はやっているが、
ししの気分ではない。
ついでに、桜鍋もないな。
(本来は、軍鶏鍋や桜鍋は真夏、暑気払いに、というのが
江戸からの伝統ではあろう。)

と、いうことで、決まったのはふぐ。

私の住む元浅草の隣町、松が谷の[牧野]。
ここはおそらく拙亭に最も近い、有名ふぐや、
で、あろう。

以前から行っているが、先シーズン(今年の2月)、
話題だと聞いて、ふぐではなく毛蟹の鍋を食べにいった。

これはこれで確かにうまいし、新しくおもしろい味なのだが、
二人で食べるには、いかんせん量が多かった。

昼頃TELで予約を入れる。
毛蟹鍋人気もあってか、予約ができないこともある。
5時にする。
ここは予約時に聞かれるが、ふぐ刺し一人前だけ
頼んでおく。

4時40分頃、内儀(かみ)さんと出る。

拙亭からは左衛門橋通りを真っ直ぐに北上すれば
すぐである。
浅草通りを越えて信号三つ目。
合羽橋本通りを右に曲がる

今、合羽橋通りというと道具街の通りのことを指すのが
一般的になのかもしれぬが、本来はこの東西の通りのことで
あろう。
(詳細はこちら。)

合羽橋本通りを曲がってすぐ左。
店の前に、区が建てている不思議な河童の像がある。
店の前には太い江戸文字のカナで「ふぐ」と書かれた
赤くて丸い提灯が下がっている。

55分到着。ちょいと早いが、入る。

名前をいうと、カウンターの一番奥の席に
案内される。
やはり、席は一杯であったようである。

二階の座敷にお客が入っているようだが、
一階はまだ我々だけ。

ここでカウンターに座るのは初めて。

調理場の様子がよくわかる。

向かって一番左の端の俎板の前にだいぶお年のように見える
ご主人とおぼしき人。
背中が曲がっている。

調理場はもう一人男性。
こちらは若く、ご主人によく似ているので
息子さんかもしれぬ。

皆を仕切る、女将さんらしきやはり年配の女性。

そして、娘さんか、女将さんにも増して
段取りよくお姐さん達を差配している。

この四人、なぜだか皆、顔が似ている。
家族ではなかろうか。
娘さんと調理場の息子さん、長女とちょっと若い長男?。
関係はよくわからぬが、ファミリー感が漂っている。

ちなみに、女将さんを筆頭にお姐さん方はすべて着物に
割烹着姿。

瓶ビール、キリンをもらって、
お通しと、ぽん酢がきた。


お通しは松前漬け。

そして、ふぐ刺し。


ビールは一本でやめて、すぐにひれ酒にする。


ちょうど目の前がお燗場。

娘さんがしているのだが、
ひれ酒の製造工程がよくわかる。

銅製の器に湯が沸騰しており、そこに一合のお銚子を入れる。

お銚子には白雪としてあるので、銘柄通りなのであろう。

これをかなり熱く燗をつける。

そして竹の駕籠のような蔽いのついたひれ酒用の湯呑みに
ひれを入れ、熱くした酒をお銚子から注ぐ。
そして、木のふたをして、出す。

出されたら、一緒に出されたマッチをすって、
火をつける。

お約束のひれ酒のセレモニー。
日本酒なので、そう火は上がるものではないのだが、
気は心。なんだか愉しい作業である。

ふぐのひれ酒。

これが、なんともうまい。
いくらでも呑めてしまうので、悪酔いする、のである。

このうまさは、酒の銘柄にもよるのであろうか。

ひれは炙ってあるのだと思われるが、
香ばしく、旨味、出汁?も出ているように感じられる。

ひれ酒はふぐ以外では、いわな、やまめ、などでもする。
あるいは、魚の中骨を同じく炙って酒に入れる骨酒、
というものもある。
おそらくひれ酒は日本中にあるのであろう。

ふぐのひれ酒は、ひょっとするとふぐの刺身や、
鍋以上にうまい。

 


つづく


台東区松が谷3−8−1
03−3844−6659


 




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