断腸亭料理日記2014
3月15日(土)第一食
さて。
土曜日。
米の飯(めし)、ご飯が食べたいのだが、冷蔵庫に冷飯もない。
炊こうか。
米は内儀(かみ)さんに研がせて浸水をさせておく。
飯を炊くのはよいのだが、おかずはなににしようか。
冷凍庫をのぞいてみると、いかの下足とエンペラがあった。
前にも、冷凍庫の下足とエンペラで焼きそばにしたが、
内儀さんはいかが安い時に買って、刺身にし、
下足とエンペラは凍らせておく。
内儀さん自身はそれっきり忘れているのか、下足とエンペラが
冷凍庫にたまっていく、と、いうわけである。
ゆでて、白い飯の上にのせて、甘いたれをかけて、
丼にしようか。(げそ丼?)
甘いたれは、鮨やでいうツメ。
鮨やで穴子を煮た煮汁を煮詰めたものだが、私も真似をして
穴子を煮るとこのツメを作り、いわゆる継ぎ足し継ぎ足し、
いつも冷蔵庫にストックしてある。
鮨やでもこの甘いたれは、下足にもかける。
凍った下足とエンペラは水に入れて解凍をしておく。
米の浸水、1時間後、もうよいかな。
浸水の具合を確認して、例によって、ホーローの鍋で炊き始める。
最初は強火で沸騰させる。
沸騰してきたら、一度火を止め、
杓文字(しゃもじ)で下からよくかき混ぜる。
そして今度は最小の弱火にして、鍋のふたの上に
水を入れた500cc入りのカップを重石がわりにのせておく。
火を止めるタイミングは、水分がなくなってきて、
焦げの匂いがし始めたら、と、私はしている。
ご飯というのは不思議なものである。
多少焦げても、おこげ、などといって、食べられる。
いや、むしろ、おこげはうまい。
匂い、をタイミングにしているので、鍋から離れられない。
火を止めたら最低でも7〜8分の蒸らし時間を取る。
これで飯が鍋で炊ける。
慣れれば失敗することはない。
電気炊飯器で飯を炊けば、家のものは1時間はかかる。
鍋でガスで炊けば、15分ほど。
格段に速い。
電気炊飯器ではスイッチを押すだけで炊き上がり
付きっ切りでなくともよいので、便利は便利なのだが、
こうして鍋で飯を炊くことを憶えると、果たして本当に
電気炊飯器で飯を炊くのがよいことなのか、と思えてくる。
私など、物心ついたら、お釜もあるにはあったが、ガスだったり
電気だったり、の炊飯器で母などはもう既に炊いていた。
野外のキャンプで飯盒(はんごう)で飯を炊いた経験が
あるくらいで、鍋でご飯を炊いた経験はなく、炊き方は
知らなかったといってよかろう。
これ、やはりできた方がよいのではないか、と、
思うのである
災害などの非常時のことを考えても、飯の炊き方を
知らなければ困るであろう。
(とすると、火の熾しかた、炭の熾し方なども知っていた
方がよいことになる。)
日本人として、おそらく私などの世代の親の世代までは
できたことであろう。
親の世代が皆、あまねくできていたことができなくなる
というのは、考え物である。
便利な器具に支えられているのが現代の我々の生活だが、
いざガス、電気がなくなると、最低限の生活の糧である飯が
自力で炊けなくなってしまっては、日本人として退化したことに
なるように思うのである。
(ついでにいえば、着物も着れた方がよいし、たためなければ
いけなかろう。)
火鉢と炭はあるが、火打石も買って、火を熾す練習もしておこうか。
切火も切れるし、、、。
閑話休題。
飯が炊けたら、蒸らしている間に、下足とエンペラは
軽く茹でて、水気を取っておく。
瓶に入った甘いたれは冷蔵庫から出して、固まっているので、
レンジを1分ほどかけて溶かしておく。
炊き立ての飯。
(白い飯の写真を撮る、というのはむずかしいものである。
なかなかうまそうな写真にならない。)
丼に飯を盛り、下足とエンペラをのせ、たれをかける。
これだけでは愛想がないので、ねぎを切ってあしらう。
京都のしば漬けも出す。
こんなものでも、うまいものである。
だが、この甘いたれというのは、実に便利である。
下足を茹でて、しょうゆをかけただけでも、まあわるくはないが、
このたれをかけるだけで、それらしい丼になる。
たれは、鮨やで穴子や、煮蛤に塗って出されるので
皆さん、味はおわかりであろう。
穴子の煮汁を煮詰めてあるので、ただ甘辛いしょうゆ味ではなくて、
うまみもある。
鮨やでは毎日のように穴子を煮るので煮汁も毎日のように
新しいものができる。
むろん、新しいと香りもよいのだが、まあこれでも十分。
充実した第一食、で、ある。
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