断腸亭料理日記2013
引き続き、赤坂大歌舞伎。
芝居の具体的な内容に入る前にお昼に買ったお弁当。
中身はちらし寿司。
茶懐石寿司の[赤坂・福鎚]というところのもの。
ちょっと大阪寿司のような感じのものなのであろうか。
値段もよいが、見栄えもよく、うまかった。
さて。
『乳房榎』の舞台。
一言で言って、エンターテイメントとして
とてもたのしめた。
大阪で工夫されたということが背景にあるようだが、
お客を歓ばせるために様々な工夫、仕掛けが随所に施されているということ。
その第一が、昨日出した「演目」にも書かれているが、
勘九郎の三役早替わり。
これがはっきりいって、すごい。
並みの早変わりのものではない。
ある役をやって、次の役までの間が、数えてみると、10秒。
帯から着物からおそらく鬘(かつら)もすべて替わっている。
挙句の果ては、勘九郎が演じている下男正助とうわばみ三次は、
同時に舞台へ登場し、戦うのである。
むろん仕掛けがあり、どちらかが本物の勘九郎なのである。
顔を見せる方が勘九郎。見せていない方は他の誰かが演じている。
まあ、そいうことなのではあろうが、この入れ替わりが
舞台から遠かったせいもあるが、まったくわからなかった。
よくまあ、こんなことを考えたものである。
早替わりだったり、宙乗りだったり、というのは、
今観れば新鮮で驚愕だが、江戸の頃、爛熟期ともいえる
幕末近くにはお客をたのしませようと
盛んに行なわれていたという。
それを現代に蘇らせているということなのであろう。
(先代猿之助のスーパー歌舞伎もそうした例になろう。)
そしてもう一つのポイントは、本水(ほんみず)といっているが、
舞台に滝を拵(こしら)えて本物の水を流しているのである。
これは最初の公演の時であったか、
だいぶ話題になったので私も聞いていた。
実際の舞台は、むろんのこと水を効果的に使った
演出になっている。
また故勘三郎の舞台は、随所にアドリブが入ったり、
客との会話があったりと、より身近に、たのしくみせようという
サービス精神にあふれているがこれも、やはり、この舞台には
受け継がれていた。
さて。
勘九郎については昨日、おとっつぁん、そっくり、と書いたが、
獅童について。
歌舞伎という世界では、キャラクターの類型化というのが、
随分と発達している。
獅童の今回の役は“色悪(いろあく)”という役柄。
つまり、二枚目の悪人。
こういう役は、彼の仁(ニン)に合っている(キャラが合っている)
のであるまいか。
浪江というちょっとスカシテ、羊の皮をかぶっているが、
目指す女を我が物にするためには手段を選ばないという男。
これに対して、七之助。
七之助は、お関、というこの物語ではヒロインになる、
24歳の美人内儀(ないぎ)。
浪江に籠絡される。
その役の行動からくるものだが、なんとなく影が薄い。
(あまり特な役ではないのかもしれない。)
勘九郎が三役もやっているので、実際のところ、
ほぼこの3人でまわしている舞台。
実際の早替わりは、役者本人よりも裏方の方がたいへんだ、
と、勘九郎はインタビューでも述べていたようだが、
若手役者3人でこれだけ満足度の高い舞台を作れるのは、
たいしたもの。
大詰め(最後の幕)の最後。
切口上(きりこうじょう)で幕なのだが、
発声は、勘九郎。
「ほんちには〜〜、まず。これきりぃ〜〜〜〜」
この切口上をするのは座頭の役割。
弱冠三十一歳。勘九郎の押しも押されぬ、立派な座頭ぶり。
この演目『乳房榎』そのものは勘三郎の遺産であることは
間違いないが、立派に跡目は継げる、ということを、
観客へ示した舞台であったと思われる。
おそらく、これからも父の演った演目を座頭として引き継いで
いくのであろう。いきなり、たくさんのものを背負わされ、
その重責はいかばかりのものか、想像に難くない。
是非、負けずに前進をしていただきたいと願い、同時に、
近い将来、勘九郎オリジナルのページも加えていっていただけると
ファンの一人として信ずる次第である。
今回の赤坂大歌舞伎『乳房榎』の舞台評のようなものは、
ここまで。
続けて、もう少し書かせていただきたいことがある。
それは三遊亭圓朝作怪談噺としての『乳房榎』のこと、
で、ある。
落語をホームグラウンドといってるくらいなので、
落語としての作品論とまでいうと、大袈裟かもしれぬが
なんらか考察をしてみなければいけないであろう、と
思ったのである。
ということで、それはまた明日。
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