断腸亭料理日記2013
さて。
赤坂大歌舞伎『乳房榎』に引き続いて、
三遊亭圓朝作、落語としての怪談噺『乳房榎』について、書いてみたい。
以下、お話そのものを書いてしまい、いわゆるネタばれになる
部分もあるので、今後この芝居を観たいと思われる方は、
ご注意いただきたい。
皆様は落語というと、八っつぁん、熊さん、ご隠居、その他
長屋のお馴染みの面々が出てくる、おもしろおかしい噺、
下げ(落ち)がある落とし噺、を、思い浮かべられることとであろう。
実際のところ、今、演じられている8割以上がそういった噺ではある。
が、少し、落語をご存知の方であればお分かりかと思うが、
人情噺、といわれるタイプの噺もある。
『文七元結』『芝濱』『紺屋高尾』『子別れ』『品川心中』
などなど。
そう数は多くはないが、おもしろおかしい通常の落とし噺よりも
ちょっと長めで、泣かせる噺、というもの。
今でも、人気はあり、時折は独演会などで演じられる。
30分、あるいは1時間にならんとする間、おとなしく座って
聞いていなければならない。
長い噺というのは、それだけで、お客へはハードルが高い。
それでも、今でも人気があるというのは、噺としての完成度が
高いということであろう。
100年以上掛けて淘汰と洗練をされていきた噺達。
今あげた、現代に残っている人情噺というのは、多くは長いといっても、
全部を通して演っても、長くても1時間にはならない噺が多い。
やはり、このあたりが限界なのであろう。
人情噺といっているものでも、1時間を越えてさらに長い噺もある。
こういうものは途中に休みを入れて、上下、あるいは、
上中下三つに分けて演る。
(先に挙げた『子別れ』なども三つに分けるが、今は、
通しで演ることはあまりなく、上だけ、あるいは下だけを
演ることの方が多い。)
さて、今回の怪談『乳房榎』。
これはさらに長い。
これらは一日で演りきってしまうのではなく、
10日とか、15日とか、続けて、毎晩毎晩演じる。
お客は、毎晩毎晩、たのしみにして通う。
これが本来の演じられ方であった。
こういう興行形態というものが影響してであろう。
今ではほとんど演る人はいなくなってしまった。
(例外的に、なんとかの場、などといって、一部分だけ
そこだけ聞いてもわかる形で演ることはある。)
私自身も通しで聞いたことはないし、音としても一部分のみで
全編通しのものはほとんど残っていなかろう。
で、その多くが、圓朝作の一連の怪談噺群である、
というわけである。
『真景累ヶ淵』『牡丹灯籠』そして今回の『乳房榎』というのも
その例なのである。
そんなわけで『乳房榎』は音もなく、むろんライブでも
聞いたこともなかったのだが、今回、芝居を観たのを機に、
家にあった『圓朝全集』で初めて読んでみたのである。
芝居とは後半しめくくり部分が違っている。
ざっくりとあらすじを書いてみる。
菱川重信(勘九郎)という絵描きがいた。
もとは武士。この奥方、お関(七之助)が二十四だが
飛び切りのいい女。このお関に恋慕をした浪人ものの
磯貝浪江(獅童)。お関を我が物にしようと、重信に
弟子入りをし近付く。
そんな折、重信に高田馬場のあたりの寺から
天井絵を描いてくれとの注文があり、泊りがけで
重信は龍の絵を描きに行く。
亭主のいない留守を狙い、浪江はお関に関係を迫る。
まだ赤ん坊の一人息子を殺す、と脅され、お関は
やむなく関係を許す。
その後、、浪江は高田馬場へおもむき、
重信の下男正助を脅し手助けをさせ、とある計略で
重信を殺す。
ここで、ちょいとした怪談になる。
浪江に殺された重信が未完だった龍の天井絵を
幽霊となって、目玉を描きにくる。
浪江はお関の入夫になろうと画策。
子供が邪魔になり、下男の正助(勘九郎)に連れ出させ、
十二社の滝で殺そうとするが、再び、重信が化けて出て、
子供を助ける。(この滝が本水を使う場面。)
正助は子供を連れて逃げ、育てることにする。
浪江は邪魔者がなくなり、お関の夫となる。
この後、落語と芝居で若干違う部分があり、
ある程度大きくなった子供が浪江を殺し、
見事、父の仇を討つ。
とても簡単に書くと、こんな感じの話、で、ある。
落語でも飽きずにわくわくしながら読める(聞ける)噺に
なっている。
ただ、芝居にしてもそうなのだが、この話、なんであろうか、
なにがいいたいの?と考えてみると、別段、なに、と、
いうことはない。
(なにかテーマを求めねばならないのかということもあるが。)
主人公は誰かといえば、だれであろう?
重信かといえば、初期に殺されるので、違う。
正助は?。こいつもただ正直なだけの男で、あまり
感情移入させる対象ではない。
そう。
最初から最後まで出てくる、色悪の浪江、なのである。
(それで、獅童の役どころは重要なのである。)
女目当てに、ここまでする奴がいるのか、という
気もしてくる。
長くなった。
来週に、つ・づ・く。
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