断腸亭料理日記2013

一条流がんこラーメン・池袋

6月7日(金)昼

今日は家の用で休暇を取る。

朝、郊外へ出かけ、昼、池袋まで戻ってきたのだが、
ラーメンが食べたくなった。

池袋というのは最近はだいぶご無沙汰。

池袋というのもラーメンやが多かろうとちょっと調べてみる。

むろん数多くあるのだが、気になったのが、
[がんこラーメン]。

皆さんは[がんこラーメン]というのは、ご存知であろうか。

以前は[がんこ]というだけで、通じたのだが、
今は、宗家というのか、開業をした一条氏の名前を取って
[一条流がんこ]というのが一般的のよう。

私は創業時ではないが、20年以上前から、味だけではなく、存在そのものが
妙に気になって通っていた店である。

そもそもは昭和の50年代、初代の一条氏が早稲田で始めた
ラーメンやがもとで、看板なし、電話なし、窓は黒く塗りつぶし、
店の入口に牛の骨をぶら下げる、というのがトレードマーク。

私も会社に入ってからしばらくして、20年以上前、
早稲田の店を探していったのが最初であった。

その初代の掲げたラーメン哲学は
「スープは熱く、濃く(塩辛く)、麺は堅く」の三カ条。
これが[がんこ]の大きな特徴。

また、もう一つの大きな特徴はご主人の人柄。
これは一子相伝の[がんこ]ならではのものなのであろう。
基本、皆、寡黙だが、柔和。(ただし、これは個人のキャラクターに
拠るところが大きく、当てはまらないところもある。)

ただ、店には独特の緊張感があった。

“ラーメン哲学”なるものが掲げられており、
これがいやなら来なくていいよ、というメッセージがあるからだろう。

こういうメッセージを公然と掲げているラーメンやなどなかったし、
今も少ないであろう。

スープが熱い、麺が堅いは、好みの人は多かろうが、
もう一カ条の、濃い=塩辛い、で、ある。

[がんこ]の塩辛さは尋常ではなく、むろん、飲めない、
食べられないほどものではないが、東京のラーメンやの中では、
おそらく最高レベルであったろう。
これで引いた人も少なからずあったのかもしれない。

これに、先の、寡黙で柔和という雰囲気も含め、よくもわるくも、クセがあり、
好きになれれば、通いたくなる店であっのだと思う。

特に“寡黙で柔和”というのが私には強い魅力を
感じさせられたのだと振り返る。

当時、私は、葛飾の四ツ木に住んでいたこともあり、
この頃、青砥に六代目の店があり、ここには通った。

99年

また、浅草へ引越してからは、本郷三丁目の店

この2軒は、寡黙で柔和、という初代からの雰囲気が共通していた。

が、今ではどちらも閉店している。

実際のところ、これ以外にも、新小岩だったり、
今もあるが、末広町の店などは、なん回か行っては見たが、
“寡黙で柔和”という雰囲気がなく、継続して通うことには
ならなかった。

さて。

初めてきた池袋。
サンシャイン60通りからサンシャインへ向かってなん本目かを
右に入った右側。

お馴染みの黒い窓と牛の骨がぶら下がっている。

入口を開けてみると、満席。
ご主人が「少しまってねぇ〜」と。

ん!。これは“寡黙で柔和”な雰囲気。

外の自販機で食券を買って待つことにする。

味玉付き、というのを買う。

さすがに昼時、すぐに入れ替わりで、入る。

中はカウンターだけで、4席(?)。
狭い。そして、ご主人一人。

初代は店の中に、屋台を入れて、そこで作って出していたが
そんな狭さ。

さほど待たずに、きた。


おっと。

これは、あっさり、で、あった。
[がんこ]には、昔から、こってり、と、あっさり、が、あった。
私の場合、背脂入りの、こってり、を食べていた。

自販機にその表示があったのか、口頭でいうのか、この店のシステムが
よくわからなかったのである。

こってりでも、あっさりでも、基本のスープの味は同じであろう。
塩辛さは、気持ちおとなしいような気もするが、
懐かしい[がんこ]の味、ではある。

食べているうちにスープに溶けてくる豚バラのチャーシューも
[がんこ]のもの。

『完食、完飲するとサービス券をさしあげます。』と書いてある。

完食はむろんだが、スープも飲み干そう。

最近はあまり意識しなかったが、ラーメン好きならば、
スープを飲み干すのは礼儀でもあろう。

ご馳走様と、カウンターの上に丼を乗せ、サービス券を
もらって、店を出る。

ここの店は、関係はよくわからないが[新一条流がんこラーメン・
元祖一条流がんこ総本家客分]というのがフルネームのよう。

しかし[がんこ]ラーメンというのは不思議な店である。

東京のラーメンやは、有名になって、チェーン化するところも
少なくない。(多店舗化するが、店によって味を変えたりするのも
流行りかもしれない。)

そこまでせずとも、最低でもお客に合わせて、あるいは、
流行りに合わせて、メニューや味を変える。

いわば、マーケティングしている。
むろん商売、あたり前のことであろう。

おそらく[がんこ]は、ほぼこの、マーケティングを
していない。しているところは[がんこ]らしくない。
しないのが[がんこ]ともいえようか。

だから、なのか(他にも理由があろうが)
閉店していった店も、少なからずある。

趣味的な感じ?。
そんな気もする。

ただこの[がんこ]の趣味的な感じは、好ましい。
好ましくさせているのは[がんこ]のもう一つの特徴、
“寡黙で柔和”な感じからくるもののような気がする。

[がんこ]を語りつくしていないのように思うが、
やはり、現代において、希少なラーメンやであろう。



東京都豊島区東池袋1-13-12






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