断腸亭料理日記2013

池の端藪蕎麦

1月17日(水)夜

さて。

ちょいと、久しぶり、で、あろうか。

今日は池の端藪蕎麦

夕方から決めていた。

オフィスから駅に向かう道を歩きながら、燗酒、燗酒、、、と
頭の中で繰り返している。

大江戸線に乗って、上野御徒町で降りる。

路地を抜けて池の端藪蕎麦までたどり着く。

格子を開けて、入る。

7時すぎ、八分通り埋まっている。
あいているのは、テーブル席一つと、
座敷のお膳一つだけ。

テーブルの方に座る。

座るなり「お酒お燗で!」、と、いうと、
「普通でいいですか?」と聞いてくれた。

さすがに池の端藪蕎麦、やはり、今時は、貴重な存在、で、あろう。
燗酒といえば、なんでもかんでも、熱燗しか持ってこないところ
ばかり。

「はい。普通で。」

そうなのである。

普通が通じないところも多い。
熱燗とぬる燗だけ。

あきらかに、どちらでもない、ちょうどいい上燗、普通、というのが
あるのである。

肴は。

すいとろか、、、いつもの、柱わさび、か。
柱わさび、だ。

柱わさびというのは、小柱の刺身のこと。

お姐さんが、お酒を持ってくると、
柱わさび、と、頼む。

すると「ごめんなさい。切れてるんです」。

あれま。「じゃあ、すいとろ」。

すいとろ、というのは、とろろのこと。


お盆の上の酒呑み空間。

ここの猪口もなかなか、乙なもん、で、ある。


すいとろ、が、きた。
あえて書いているわけではないが、
つけとろ蕎麦のとろろ、であろう。

つまり、出汁で割ったとろろ、で、ある。

すすりながら燗酒を呑む。

酒が進む。

板わさを頼んで、もう一合もらおうか。


ほんの小さなしょうゆさし。

毎度書いているが、こんなものもここのものは
乙、で、ある。

さて。

蕎麦。

温かい蕎麦。

冬、蕎麦やで、酒の肴なると、私は天ぬき、
天ぷらそばのそば抜き、と、決めている。
しかし、ここ、池の端藪の天ぬきだけは、つゆが、蕎麦のつゆ、
ではなく、なぜだか澄んだつゆ、なのである。

天ぬきはなにがうまいのかといえば、しょうゆのつゆに
天ぷらの衣が溶け出しているのが、うまいのである。
透明なつゆでは、やはり、いけない。

それで、ここでは天ぬきは、最近は頼まない。

それでも、やはり、今日も頭にあった、天ぷら。
それで、天ぷらそば。

藪系で、天ぷらそばといえば、
長い海老天、ではなく、芝海老のかき揚げ。


写真でおわかりになろうか。
なぜだか、器が小さ目なのが、おもしろい。

形よく揚げられたかき揚げ。

むろん蕎麦が入れば、藪らしく、濃いしょうゆのつゆ。

蕎麦が、ホカホカ。

やっぱり、溶け出してくる衣がどうも、堪らなく、うまい。

そして、温まる。

席で勘定をして、立つ。

「ご馳走様ぁ〜」、といって、格子を開けると、
後ろから聞こえてくる「ありごとうございますぅ〜」
の声に送られて、池之端仲町の通りに出る。

まんぞく、まんぞく。



池の端藪蕎麦

 



  


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