断腸亭料理日記2012

池之端・おでん・多古久 その2

10月28日(日)夜

昨日は、がんも、ちくわぶ、つみれ。

それから、すじ、焼豆腐。

ねぎまの串、ときた。

ビールから酒。

おでん鍋の前に座った、おかあさん(娘さんの方)に
お酒お燗で一合、と、頼む。

おでん鍋にはお湯の入った銅壺のような部分もあり、
これに酒の徳利を入れて、お燗をつけてくれる。


一合だと、この徳利(お銚子)。

真っ白に店名入り。

二合だと、いわゆる白鳥という形の徳利。

白鳥と書いてしまったが、ご存じの方はあまり
多くはないかもしれない。

ここのものは一合同様店名入りだが、基本は真っ白。
そして、首の部分が長いもの。

真っ白で首が長いので、白鳥、ということである。

古い時代劇などを視ていると出てくる。

以前には、安物の代表で、どこにでもあるものであった、
と、いう。

私はこの白鳥がほしくて、近所の合羽橋道具街を
さんざん探したのだが、見つからなかった。

合羽橋にないのだから、流通しているものでは
ない、のであろう。

ここのものは、わざわざ作らせているのかもしれない。

しかし、なんでなくなってしまったのだろうか。

安物というイメージで買う人がいなくなったからか。

とにもかくにも、
おでんやの徳利は、やっぱりこういう、
古い形のものの方が、よい。
(お多幸などは、ちろり、で出していたっけ。)

おでんに戻る。

いいだこと、玉子。


いいだこは、別段かわったものではないだろう。
他の種同様、しょうゆのつゆで煮込んだもの。
だが店の名前が多古久なので、まあ、マスコットのような
存在であろう。

玉子もまた、うまい。
しょうゆが染み込んだ玉子は、実にうまい。

関西風の薄いつゆでは、こうはいかない。

ねぎま同様、串もの。


牡蠣。

これもまた、ちょいと乙。

さて。

仕上げにご飯?。

どういうわけか、東京のおでんやのご飯は
茶飯、と、決まっていた。

が、ここは茶飯はなく、おにぎりか、茶漬け。

いや、よそう。
食べすぎはよくない。

ご馳走様です、お勘定。

おつりをもらう時に、おかあさん(娘さんの方の)に
今日はおかあさんはお休みですか?と、聞いてみた。
すると

「亡くなったんです。」

「えっ、いつ。」

「今年の五月。」

今年も花見の頃、上野の山の帰りに、
ここになん人かできたはず。

おでん鍋の前で、夜も遅くなると、こっくりこっくり、
舟をこいで、お酒の注文がはいると、娘さんが
「お母さん、お酒ですって!」といって、起こしていたのを
思い出す。

そうなのか。

私の場合、基本、年上の女性とは相性がわるい。
特に、水商売系の女性は。

生意気に見えるのか、よく頭ごなしに説教をされる。
そのたびに、ふざけるな!、金を払って説教をされるのは、
間尺に合わない、と、よく腹を立てて、帰ったりした。

だが、先に書いたが、このおかあさんにも、よく説教をされたが、
不思議と腹が立たなかった。

昔の、池之端、下谷花柳界の空気を感じさせて下さった
多古久のおかあさん。
遅ればせながら、ご冥福をお祈りする。




台東区上野2−11−8 長谷川ビル1F
電話:03-3831-5088


 



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