断腸亭料理日記2011

神楽坂・うなぎ・志満金

10月25日(火)夜

市谷で19時頃、仕事終了。

今日は、帰り道、神楽坂のうなぎや、志満金
久しぶりにいってみようかと考えた。

納戸町から牛込南町を抜けて、左に曲がり、
すぐに右の細い路地に入る。

この路地は、坂道。
別段珍しい名前ではなく、新坂、という。
由来は、むろん新しく作られたからなのだが、
できたのは享保16年(1731年)で新しくはない。

江戸の頃のこのあたりは、中小の武家屋敷。
それも皆、旗本、御家人、幕臣達の屋敷地。

長方形にきちんと区割りされた北、中、南町の三町は、
狂歌師、大田蜀山人こと、大田直次郎も住んでいた、
御徒(おかち)の組屋敷。

御徒町といえば、今は、上野の南だが、
牛込にも御徒町はあったのである。

新坂を降りると、クランク。
突き当たりを左に曲がり、またすぐを右。

このあたりは、もう、神楽坂の裏通り。
また最近、このあたりにも新しい店が
できているようである。

道なりに歩くと緩い坂になり、神楽坂下に、出る。

志満金は出たところ。

創業は130年前というから、ピッタリであれば、
明治13年。

ついでだが、かつそば、という強力なメニューを持つ、
隣のそばや翁庵は明治17年で、同じ頃、である。

神楽坂、というと、江戸の風情を残した
花街、なんという言い方をされることも多い。
しかし、江戸の頃の神楽坂は、若干の岡場所はあったが、
基本は先にも書いたが、武家地で、
花街になっていったのは、明治以降のこと。
この神楽坂の通りも、坂上に向かって町屋は
左側だけで、右側は武家屋敷であった。
(本多横丁なんという名前も残っているが、
旗本の屋敷、で、ある。)

まあ、そういう意味では、志満金や翁庵のある側は
江戸からの町屋でそこに明治になりこの二軒は開業し、
今まで暖簾を守っている、ということである。

ともあれ。

店に入り、二階へ案内される。

市谷から歩いてくると、汗をかくほど。

上着を脱いで、まずは、ビール、で、ある。

ヱビス。

うなぎやでは、つまみは頼んではいけない、
というのが、池波先生の教えだし、
お新香だけで呑む、というのは、落語などにも出てくる。
が、やっぱり、それじゃあ、さびしい。

品書きを見て、お!。
秋である。

忘れていた。

松茸。

今年はまったく食べていなかった。
どびん蒸しをいってみるか。

お姐さんにいうと、ちょっと時間がかかる、
というので、肝煮ももらうことにする。


生ぐさみなどなく、上品に煮てある。

つまみながら、ビールを呑む。

ここは、蒲焼もうまいのだが、
静かで落ち着いているのがよい。

うなぎやの老舗は、やはり浅草など下町に多いが、
味本位というのか、飾らず、蒲焼だけで勝負しているところと、
割烹の看板も揚げ、刺身だの入れて、
コース仕立てにしているところとある。

どことはいわぬが、割烹の看板を揚げているところは、
私はいかないようにしている。
コースにすれば、それだけ値段も取れる。
蒲焼だけでは、有名なところでも、そうでなくとも、
そうそう値段は違わない。
店側からすれば、儲からない、ということになろう。
そういう了見のところは、知れているではないか。

が、ここ、志満金は、よい。

別段、コースを頼まねばならぬ雰囲気でもなく、
見たところ、うな重だけのお客の方が、多いかもしれぬ。
であるが、とてもよい客あしらいで、居心地がよいのである。

さて。

きたきた、どびん蒸し。


ふたを取ると、ぷわぁ〜っと広がるよい香り。
松茸の他には、三つ葉に、焼き穴子で、あろうか、と、
海老、銀杏、焼麩、なんというところが入っている。

お猪口でつゆを飲みながら、松茸もつまむ。

ささやかな、秋の愉しみ、で、ある。

さてさて。

お重がきた。


またまた、ふたを取る、愉しみ。
山椒をふって、ハフハフと、かっこむ。

うまい、うまい。

いや、ほんとに、この瞬間ほど、東京に生まれ育ち、
今でも住んでいる幸せを感じることは、ないかもしれぬ。

ふ〜、うまかった。


食べたのを見計らってか、煎茶を差し換えてくれる。

そして、その、少し後。

薄茶といって出される、仕上げの抹茶、
落雁付き。


抹茶なんぞ、それこそ、この店でした
飲んだことがない私だが、とても優雅な気分に
なるものである。

ゆっくりと、一服。

ご馳走様でした。




ぐるなび






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