断腸亭料理日記2009
7月2日(木)朝
ビックサイトでの展示会を見に行くので、
今日は直行。
朝は比較的ゆっくり。
朝飯を作ろうかと考えた。
冷飯でもあれば、チャーハン、とも思ったが
それもない。
が、ご飯ものがよい。
そこで思い付いたのが、リゾット。
リゾットというのは、生米からでも比較的簡単に、
短時間でできるのでよい。
これは、浸水をしないから、で、ある。
そういえば、先日、NHKBSで高見恭子さんが、リポーターで
『コメ食う人々「リゾットの美味を極める」
〜北イタリア・ポー川流域〜』というのをやっていたのを
ちらっと視た。
このシリーズは、アジアだったり、イタリアだったり、
文字通り、「米を食う」人々を世界から選んで、
取材しているシリーズ。
つまり、米食地域の文化と現状のようなものを扱っている。
同じ、米を主食とする我々と、どう違うのか、で、ある。
おもしろそうだったのだが、残念ながら、この回しか視ていない。
同じ米食でも、考えてみると、日本のご飯というのは、
世界的にみると、随分と特殊、では、ある。
そもそも、日本の米は、ご存じのように、
ジャポニカ、という種類。
特徴は、あの粘り気。
これが背景であるが、十分に浸水させて、火にかけ煮立て、
一度、ネバネバの中で、茹で上げ、弱火にし、水分を飛ばしながら、
もう一度このネバネバを米に戻す。
前に、鮨の考察をしたことがあった。
粘り気はあるが米にもう一度粘り気を戻した日本のご飯。
鮨なども、この日本のご飯がなければ成立していない食いもの、
で、ある。
日本のご飯は、粘りがある種類、ということもあるが、
炊く前に十分に浸水をする、ということも特徴であろう。
イタリアなどヨーロッパ、アラブ、中央アジア、
インド、タイ、インドシナ、、あたりまでは、
浸水はしないで、そのまま炊く。
(中国や、朝鮮半島はどうなのだろうか。
そういえば、聞いたことがなかった。
種類は、日本の米とは、違ったはずだが、
やはり浸水は、する、ようにも思われる。)
ジャポニカという粘り気の多い品種と、十分な浸水で
粘り気が多く、かつ、ふんわりした、独特の『ご飯』というものを
日本人は作り上げた。
日本でも、人それぞれ。家庭によって、あるいは地域でも微妙に
炊きあがりの、かたさ、柔らかさには好みの違いがある。
いずれにしても、我々は、炊飯器になった今も、"水加減"といっているが、
多くても、少なくともだめで、厳密な割合で炊いている。
考えてみれば、これも世界的にみれば、レアな
米の炊き方、ではなかろうか。
日本人が他と比べて、全般に繊細な民族である、
と、言いたいわけではないが、食いもの、
特に、ご飯に関しては、これはある程度、いえそうな気もしてくる。
そんなご飯の炊き加減にうるさい日本人だが、現代においては、
少し自分のことを考えてみても、変わってきているようには思う。
少し前であれば、リゾットのようなもの、あるいは、タイ米
などは、私も、とても受け入れられなかった。
自分で、パエリアなどを作ってみても、芯があると、
やはりどうしても、うまい、とは思えない。
あるいは、ベチャベチャのリゾットは、お粥のようで、
とてもまともな、ご飯には入れられなかったように思う。
パラパラな、タイ米においてはなおのこと。
外米などといって、まま子扱いをしていたであろう。
今でも、白いご飯は、やはり、従前通り、好みの炊き方でなければ、
ダメ、であるが、今は、柔らかいリゾットも
普通に食べるようになったし、パラパラのタイ米もカレーなどには、
逆にうまい、と、思えるようになってきている。
これも、いろいろな食文化を柔軟に受け入れる、という、
日本人の特徴かもしれぬ。
ともあれ。
リゾット、で、あった。
これは、イタリアでは、プロは、パスタなどと同様に
ちょっと芯のあるアルデンテを目指すようである。
(日本人は、芯がある米はダメだが、イタリアでは
逆で、こだわり方が、違う、ということであろう。)
しかし、番組の取材した家庭では、アルデンテではなく、
柔らかくするのを流儀にしているともいっていた。
と、いうわけで、リゾットを、朝、簡単に作る。
まずは、玉ねぎ1/4個をみじん切り。
あとは、冷蔵庫にあった、ベーコン。
これも細かく切る。
フライパンを熱し、ここにバター。
これは、たっぷり。
玉ねぎとベーコンを入れ、よく炒める。
生米は、1/2合ほど、だが、特段、計ったわけではない。
これをフライパンに入れ、油がまわり、透き通るまで、炒める。
ここに、水。量は適当。
これは、本当に適当。
ヒタヒタよりも、ちょっと多いくらいだが、
状態を見て、干上がったら足せばよい。
水だけではなく、ブイヨンや、ローリエなども入れてもよいが、
まったくなくてもよい。
塩胡椒。
塩は、バターを最初に入れているので、控えめに。
あとは、柔らかくなるまで、弱火で、煮る。
(特にふたはしない。)
10分超、15分未満であろうか、だいぶ柔らかくなってくる。
芯があるかないかは、米の中心に白っぽい部分が
なくなれば、OKであろう。
(やっぱり、芯は、あるよりは、ない方が日本人には、
うまいことは、間違いない。)
仕上げに、フライパンに直接パルメザンチーズをたっぷりとふり、
よく混ぜる。
皿に盛って、完成。
作り始めてから、30分もかかっていない。
浸水から、2時間はゆうにかかる日本のご飯とは、
大きな違い、で、ある。
こんなものでも、そこそこ、うまいリゾットが
食えるのではある。
しかし、やはり、最初に考えたが、なぜ日本人は、
長年に渡って培ったのであろうが、あんな面倒くさい
飯の炊き方をしているのか、このリゾットの簡単さをみても、
そこに思い至る。
今は、炊飯器まかせで、誰でも、同じように飯が炊けるが、
一昔前には、女性ではすべて、男性でも、ある程度の人間は、
ガスなり、薪、炭、で、ご飯を炊くことができた。
いや、今でも炊ける人は多かろう。
しかし、先ほども書いたが、飯をうまく炊く、というのは
時間もかかるが、実際には、むずかしいことだと思われる。
水加減、火加減、そうとうに高度な技、で、ある。
例えば、天ぷらを揚げる、くらいにむずかしいことだと思うのである。
ちょっとでも間違うと、ご飯としては、ダイナシ、なものができてしまう。
それをほとんどの日本人ができていた、というのは、
なんであろうか。
むろん毎日のことであるから、習熟するし、
なにも考えずに、できていたことではあろう。
主食に対する、こだわり、といってしまえば、それきりだが、
世界中の人々が皆、主食だからといって、このように、
微妙な調理をしているかといえば、そうでもなかろう。
(例はヘンだが、南の島の主食、タロイモは、穴を掘って
その上で、たき火をして、火を通すが、そうそう技術は、
いらなそうだし、メキシコなどのトルティージャも、小麦粉を
こねて、丸く薄く伸ばして、焼く。これは自分でやってみてたが
ご飯を炊くよりも、簡単であると思われる。)
なぜであろうか。
日本の米でも、いい加減な炊き方をしても、食べられないものが
できるわけではない。たとえば、それこそ、リゾット(お粥)のようなもの
でも十分に食べられるし、お粥だってうまいものである。
(むろんお粥というメニューは存在する。)
そうすると、やはり、今のご飯が一番うまい、というところに
工夫をしながら、たどり着いた、と、いうことであろう。
(食べられないほどのものなので、試行錯誤をした、
と、いうことではないだろう。うまさを追求して、今の炊き方に
なったと思われる。)
それだけ、やはり、うまいものに執着が強かった、
そういうことであろうか、、。
ともあれ。
リゾットのことのはずが、日本のご飯の考察になってしまった。
リゾットという比較対象があると、いつもあたり前の“ご飯”というものも
別の眼で見ることができた、ということであろう。
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