断腸亭料理日記2008
1月6日(日)第一食
この正月二日、あの、メジャーリーガー、イチローを取材した、
NHKの「プロフェッショナル・仕事の流儀」を
ご覧になった方はおられるだろうか。
番組の全体の内容はさておき、筆者が最も興味をひかれたのは、
イチローの毎日の食事であった。
彼は、毎日、夜のゲームに備え、
昼前、朝昼兼帯の食事をしてから、自宅を出て、
球場へ向かうわけだが、この食事のメニューのことである。
奥さんの弓子さんが毎日作られるわけだが、
これが、ここなん年も、まったく同じ物。
カレーを食べている、というのである。
これには、わけがあり、彼の「流儀」、と、して、
朝起きてから、球場に着くまで、食事以外も、
まったく同じことをする、ということなのである。
自宅にいるときには、素の鈴木一郎、で、
球場に着くまでに、メジャーリーガー、イチロー、に、
なる。そのための、一種の儀式、である、という。
ある物事に集中するために、スポーツ選手などは、よく
自分の成功する(した)ベストな姿を、思い描く、
イメージトレーニング、をする。
しかし、番組でも、茂木健一郎氏が説明していたが、
それ以上に、集中できるのは、毎日まったく同じことをする、こと
であるという。
なんとなく、これはわかる。
筆者でも、なにか緊張する特別なこと(たとえば、TV取材)がある
土曜日でも、毎週欠かさず、朝、いっていた路麺(立ち喰そば)には
準備などで、忙しくても、やっぱり、欠かさず、出かけて食べる、
というようなことをする。
しかし、すごい、というのか、わからない、のは、
シアトルマリナーズへ移籍してから、すぐ、の頃から、
7年間、自宅にいる、ホームの試合の日は毎日、まったく、同じ、
夫人の作るカレーを食べ続けている。
いくらなんでも、これは、すごいことであろう。
筆者も、路麺は好きだが、さすがに、食べ続けていれば、飽きる。
(このところ、土曜朝の路麺は少し、ご無沙汰、で、は、ある。)
いや、続ける、というのも、すごいことだと思うのだが、
それ以上に、毎日、というのが、すごい。
同じことをして、集中するため、といえ、また、愛妻の作る、
大好物とはいえ、まったく同じ物を、毎日食べられるものであろうか。
まあ、常人ではない、イチロー選手のこと、
並々ならぬ、集中を求め、常人ならざらぬことができてしまう。
そういうことなのかもしれない。
(やはり、ある種、山寺に篭る、
修行僧のようなところがあるのであろう。)
ともあれ、この話をみて、まず気になったのは、
イチローの毎日食べている、この弓子夫人の作るカレー、
どんな味なのか、と、いうこと。
(そんなにも、うまいのか?)
TVでは、カレーそのものも、食べているところも映ったのだが
見たところ、いわゆるまったく普通の、ルーのカレー、で、あった。
見てわかる特徴といえば、ジャガイモなど、大きい具が見えず、
小さく切ってあるようであった、ぐらい。
ルーのカレーであれば、市販のものであろうし、
ブランドはなんであろうか?なん種類か混ぜているのか、、?
なにか特別なものを入れているのか?
などという、疑問も出てくるのだが、、、。
しかし、考えているうちに、これを解明することに、
たいした意味はない、ということに、思い至った。
筆者は、別段、イチローの信者でも、追っかけでもないし、
同じような修行をしている身でもない。
イチローは、ある特別な人として、と、いうことである。
(つまり、イチローは、普通のものを、普通に毎日食べる、
ということに、安息を感じている、ということなのであろう、
ということである。)
そして、結局、イチローが毎日食べているのが、なぜカレーなのか。
もう少し、いうと、我々にとって、カレーとはなんなのか、という問題
に、筆者はいきあたった。
インドカレーではなく、(広い意味で)普通の市販のルーのカレー、
とは、我々にとって、どんなものなのだろうか、ということ。
カレーは、家庭の味、母親の味。
あるいは、学食やら、社食やら、の、味。
位置付けとしては、そんなところであろうか。
そして、まず、日本人で、このカレーの嫌いな人、
食べられない人は、おそらく皆無で、あろう、ということ。
(イチローのように、毎日、食べる人、というのも、
皆無ではあろうが。)
味そのものは、どうであろうか。
家庭の、お母さんや、奥さんの作るものには、
ルーのブランドや、辛さの好みもあり、
また、例えば、我が家は、りんごをすって入れる、だの、
その家なりの、好みや、こだわり、のようなものがあり、
皆、それぞれが、うまい、と、思って食べている。
また、外の食堂などで食べるカレーは、どうか。
昔は、はっきりいって、まずい、ものもなくはなかったが、
今、まあ、食べられないものは、なくなったように思う。
ハウス食品や、エスビー食品、あるいは、お母さんや奥さんの、
努力と工夫、の結果、と、いうことであろう。
ここで、ちょっと、引いて考えてみよう。
まずいカレー、食べれらないカレー、が存在しない、ということは
おそらく、日本人の食べているカレーの味は、ほとんど同じ、
ということになるように思う。
むろん、家々のこだわりや、メーカーの差別化策による
差異はあるのだが、大きく見れば、違いはない、と
いうことである。
比較して、例えば、インドカレー。
一口に、インドカレーというが、店によって、あるいは
同じ店でも、単なる具の違いではない、色、粘度
(シャバシャバなのか、トロトロなのか)辛さ、
様々なスパイスの強弱、等々、実に、様々な味の違いがある。
これに比べれば、辛さは別にして、粘度、コク、スパイス、などなど、
日本のルーのカレーの味の違いは、おそらく、
誤差と呼んで差し支えないくらいの違いしかないだろう。
きっと、以前は、(まずいカレーもあったのだから)、
今よりも、もっと差異があったのであろう。
しかし、先に述べたように、消費者の好みに合わせ、
大方は、メーカーの工夫で、ほぼ、同じような味の範囲に
収斂していった。
これを国民食、と、いうのであろうが、不思議なもの、で、ある。
同じ国民食でも、ラーメンは、しょうゆもあれば、味噌も、塩もあり、
もっともっと、バリエーションがある。
(こちらは、どちらかといえば、逆に、広がる方向ではなかろうか。)
日本の飲食物で、同じようなものがもう一つ、ある。
ビール、で、ある。
海外の(で)ビールを呑んだことがある方であれば、
お分かりであろうが、味は驚くほど、違う。
ブランド、製法、等々、色も違えば、味も違う。
これに対して、日本のビールは、ほとんどが、
いわゆる、ピルスナータイプといわれる種類で、
世界のビールの味の違いと比べれば、誤差の範囲に入る。
これで、日本人の味覚は画一化している、から、
という分析をしたくなるが、そんなことは、断じてない。
日本には、伝統的な和食もあれば、中華、洋食、エスニックその他もろもろ、
日本ほど、世界の食い物が食べられる国も少ない。
これほど、様々な味覚を受け入れられる国民は世界中にそうはないであろう。
不思議、で、ある。
イチローが毎日、同じカレーを食べ続けている、という話から、
ヘンな方向にいってしまったが、今日は、結論らしきものは、ない。
日本の、普通のカレー、不思議である。
と、いうわけで、作ってみた、普通のカレー。
ルーはジャワカレー辛口に、S&Bの赤缶と辛味を増やすため、
レッドペッパーを追加したもの。
具は、ジャガイモなしで、豚肉、玉ねぎ、ニンジン。
どれも、小さめに切ったもの。
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