断腸亭料理日記2008
2月18日(月)夜
夜、オフィスを出て、牛込の裏通りを、
牛込神楽坂の駅に向かって歩きながら
なにを食べようか、考える。
昼間は心持ち暖かくなったようだが
夜はやはり寒い。
なにか温かいもの。汁物はどうであろうか。
思い付いたのが、浅利むき身のぶっかけ。
なのだが、ぶっかけずに、この汁で酒を呑もう。
なん回も書いているが、深川飯の原形といえる。
今、深川飯といえば、東京駅の駅弁になっていたり、
文字通り、深川。
高橋(たかばし)あたりや、門仲(もんなか、門前仲町)
あたりの江戸っぽい、小洒落た料理屋の人気メニューになっているが、
もともとは、深川の人々が食べていた、浅利むき身の汁を
飯にぶっかけた、ぶっかけ飯であった。
浅利むき身、と、いうのは、江戸・東京と近郊、
特に、江戸湾、東京湾の海辺近くに住んでいる庶民の食い物として
安く、従って、とても身近なものであった。
筆者の祖父母は代々、今の大井町あたりで、
今はずいぶん内陸であるが、以前は、海辺の町、
といって差支えないところであった。
浅利むき身と小松菜をしょうゆと酒で味濃く煮しめた
煮浸しなどは、父も好きで、子供の頃よく食卓にのぼっていた。
ともあれ、駅最寄のスーパーに寄ってみる。
浅利むき身は、そうそうスーパーにはないのだが、
運よく、あった。
1パック300円ほど。
そうそう安くもない。
2パック買う。
あとはネギがあればよい。
帰宅。
作る、というほどのことはない。
まったく簡単。
煮るだけである。
むき身はパックから出し、ざるにあけ、軽く洗う。
ねぎは、五分切り、というやつ。
一寸の半分で、五分。
1.5cm程度である。
ぶつぶつと、無造作に切ればよい。
浅利むき身は、かさが出ないので、ねぎは沢山入れよう。
二本ほど切る。
水から、ねぎ、むき身を入れ、煮立て、
煮立ったら、弱火にして、ねぎが煮えるのを待つ。
五分切りのねぎと、むき身であれば、ねぎの方が煮えるのに
多少、時間がかかるが、まあいいであろう。
煮えたのをみて、一度火を止め、
味噌を溶き入れる。
池波レシピとしての、浅利むきみのぶっかけは、
剣客商売で、深川に住む、例の、鰻売りの又六の
おっかさんが、作る。
むき身を出汁で煮る、と書いているので、
大方、しょうゆ味であろうかと思う。
が、筆者は味噌の方が、好きである。
味噌でも、しょうゆでも、深川の、むき身のぶっかけは、
家によって、どちらもあったという。
浅利には、多少の苦味があるので、
味噌の方が、合う、と、思うのである。
(先ほどの、小松菜との煮びたしは、しょうゆ味であるが、
これは小松菜にも微かに苦味があるので、
これと浅利むき身が呼応する、というのか、
引き合って、うまい、と思われる。)
味噌を濃い目に溶き入れて、
沸騰寸前まで、加熱し、終了。
まったくもって、簡単である。
今日は、焼酎のお湯割り。
なんとなく、このところ、すぐに酔いたい、のか、
お燗を付けるのが、多少面倒になってもおり、
芋焼酎のお湯割りが多い。
ぶっかけてはいないので、浅利むき身とねぎの、
まあ、味噌汁、である。
レンゲですくって、飲み、
焼酎を呑む。
こんなもので十分に、いや十二分に呑める。
うまいものである。
この、どんぶりに二杯。
うまかった、うまかった。
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