断腸亭料理日記2008
12月6日(土)
さて、土曜日。
第一食は、玉子を入れた納豆をおかずに、
冷飯を温めて、例の菜飯にし、一膳。
11時半から歯医者の予約。
終わって、炭を買いに行く。
寒くもなり、暮れ、正月を控えて、残りが少なくなっていたので、
買わなければならなかった。
炭やは、近所。
一度書いているが、浅草通りを渡った北側の松が谷。
斎藤商店というところ。
歩いては持って帰れないので、車。
前に書いたが、ここの小父さん、なかなかおもしろい人。
店の前に車を止めて、入っていくと、ちょうどお昼時で、
小父さん、ご飯を食べていたようで、
もごもごいいながら、出てきた。
岩手の切炭3kgを二袋。
合計5000円。
買って、車に戻る。
帰り、今日は先日買ってうまかった近所の豆腐やへ
寄ってみようと思い付いた。
新堀通りに車を停め、豆腐屋へ。
店に入ってみると、今日は、ご主人、お母さん、
息子さんであろうか、お兄ちゃんもおり、バーナーで
焼き豆腐を作っている。
跡継ぎもいるよう。頼もしい。
今日も、ちくわぶ二本、がんもどき中二つと、小二つ、
それから、木綿二丁。(豆腐は、一丁180円であった。)
ふと見ると、白滝があった。
袋には、大原本店と表記されているのが見えた。
これは、雷門の牛肉や、松喜にも売っている、白滝。
大原本店は、佐竹商店街の少し南、台東二丁目。
江戸伝統の生麩、つと麩も作っている宮内庁御用の店。
この白滝は、細く腰が強く、他にはないもの、で、ある。
買わねば。
いっぱい買ってしまった。
お母さんに、おでんでも作るんですか?、と、
聞かれ、どう答えていいか分からず、あいまいな苦笑。
そうである、この時点では、なにを作ろうか、
特に考えず、買っていたのではある。
毎度ありがとうございまーす、
と、家族三人の声に送られて、店を出る。
新堀通りに停めた車まで戻り、ふと思い立って、
最近ここにできた、スープカレーの店に入り食べてみる。
食べ終わり、帰宅。
また、ちくわぶと、がんもどきをまた一緒に煮よう。
ちくわぶは、時間がかかるので切って、先に下茹で。
今日は、普通の鍋で。
20分程度か、ある程度柔らかくなったところで、
がんもどきと煮る。
味付けは、しょうゆと酒だけ。
ちくわぶは、少し、甘辛く煮たものも
作ろうか。
日本橋の弁松の煮物ぐらいに、甘くしてみようか。
アルミホイルで落としぶたをし、双方、15分程度煮て、
味を含ませるために、このまま置く。
さて、床屋へいこう。
これも朝から考えていたこと。
毎度お馴染みの、QBだが、今日は吾妻橋へ、
徒歩。
コートを着て出る。
東に真っ直ぐ歩き、新堀通り、国際通りを越えて、
蔵前通り(江戸通り)を越え、駒形橋を渡る。
肌寒いが、ぶつぶつと落語を口ずさみながら、
ずんずん歩くと、けっこう温かくなる。
橋を渡り、北へ折れ、吾妻橋の西詰を右に曲がり、
リバーピアのQBへ。
髪を切って、出る。
吾妻橋の袂まで、戻ってくると、左側に
二軒の佃煮やが、ある。
海老屋と鮒五。
そうだ。佃煮が切れていた。
海老屋の方に入り、葉唐辛子と、はぜを買う。
帰りは、吾妻橋を渡る。
松屋に入り少し見て、新仲、雷門、雷門通り、田原町、
浅草通りに出て、赤札堂、本願寺前を通り、
菊屋橋の交差点まで戻ってくる。
この角にある、田窯という陶器や。セールをやっているようで、
少しのぞき、平皿と鉢もの一つずつを買う。
帰宅。
炭も買ったことだし、火鉢に火を入れ、燗をつけて、
さっき煮た、ちくわぶで一杯やろうか。
股引をはいて、丹前に着替える。
火を熾し、火鉢に移し、鉄瓶をかける。
そういえば、NHKで山田五郎氏が、
話していたが、氏は、鉄瓶を集めているという。
拙亭にあるような、普通のものではなく、
骨董と呼べるようなもの。
なかなか見事な細工をしたものがあるようである。
そこで氏がいっていたのだが、松風(しょうふう)というもののこと。
私は知らなかったのだが、お湯が沸くと鉄瓶から
シュンシュンという音がする。
松の木が、風に鳴る音を松風といい、
その音に、この鉄瓶のシュンシュンという音が似ているので、
これも松風というらしい。
江戸の頃は、この音をきれいに出すために、鉄瓶の底に
二分金を貼り付ける、などということもした、という。
(番組で氏の持っている、底に二分金の貼られている鉄瓶も
紹介していた。)
火鉢の火をカンカンに熾し、鉄瓶を熱くする。
普段は、シュンシュンいうまでは、沸かしたりはしないのだが、
“松風”を聞いてみようというのである。
段々に、湯気が出て、音がしてくる。
しかしまあ、テレビでやっていた、山田五郎氏の
時代ものの鉄瓶程の、よい音はしない。
シュンシュン、シュンシュン、
シュンシュン、シュンシュン、
という、鉄瓶の沸く音というのは、むろん、大きな音ではない。
静かな部屋で、なければとても気に留めるほどのもの
ではないだろう。
こうした鉄瓶の沸く音に耳を傾ける、というような、
落ち着いた生活もよいだろうと思う。
考えてみると、私などは、帰宅するとまずは、テレビを付け、
まあ、寝るまで、テレビからは、なんらかの音はしている。
鉄瓶の微かな音を、松の枝を渡る風に見立てること自体
なんと風流なことか。
そして、そもそも、こうしたものに我々の先祖は、
耳を傾ける感受性の豊かさを持っていたということ。
悲しいかな、今の自分の生活を省みずにはおれない。
ともあれ。
沸いた鉄瓶に、お銚子を入れ、燗をつける。
煮上がった、甘辛の濃いちくわぶ。
それから、少し前に煮ておいた、小松菜の煮びたし。
それから、さっき買ってきた、佃煮、葉唐辛子とはぜも出す。
甘辛のちくわぶ、小松菜と油揚げの煮びたし、佃煮と、
どれも東京の味、で、ある。
(ちくわぶの鉢はさっき買ったもの。)
今日は、テレビを消して、松風に耳を傾けようか。
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