断腸亭料理日記2006  

断腸亭料理日記池波正太郎レシピ

瓜の雷干し

5月30日(火)夜、31(水)夜

さて、瓜の雷干し、の続きで、ある。

月曜日に二本の白瓜を購入。
一本の半分を瓜もみにして食い、
後を、螺旋に切って、塩水に20〜30分漬け、
ベランダに干し、寝る前に取り込み、容器に入れて、冷蔵庫に保存。
この時点で、雷干し、で、ある。

3時間という時間は、瓜の表面が少し乾く程度で、
水分が抜ける、というほどではない。
そこで、上記のように大部分は、冷蔵庫に入れたのだが、
ほんの少し、残し、翌朝まで干してみた。

朝、出勤前に見てみると、
夜とは大違い、大分、水分が抜け、半分くらいの大きさになっている。
これも取り込み、同じ容器に入れ、冷蔵庫へ。

さて、この夜、帰宅し、食べることにする。

いろいろな食べ方があるようだ。
まずは、そのまま、食べてみる。

塩気が少なかったか。
干した後の食べ方にもよるのであろうが、
そのままであれば、瓜もみ同様、少し塩は多目がよいのであろう。

味は?
干したとて、瓜の味は大きくは変わらないが、
水分が少し抜けた分、パリッとした歯応えが強くなるように思う。

次に、金山寺味噌。(今日は、もろみそ。)


ようは、もろきゅう、なのである。
きゅうりの、もろきゅう、と、どう違うのか、などということを
追求してもあまり、意味はないかもしれない。
問題は、もっと深い。(そんなに大袈裟に書くこともないが、、、。)
きゅうりと、瓜の違い、ということなのである。
これは、後述するとして、

さて、この日は、しょうゆ漬けも仕込んでみた。

昆布と鰹でだしを取る。
これに、しょうゆと酒を加え、螺旋状の雷干しを漬け込む。
(昆布は後でもよかろう。鰹でだしを取り、そこにしょうゆ、
酒を加え、冷まし、昆布は雷干しとともに、漬け込む。)
濃さは漬け込む時間による。
即席、2〜3時間で食べるのであれば、濃い目。
常備菜として、冷蔵庫に保存するのであれば、薄め。
濃い目の目安は、ほぼ、そのまま食べてちょうどよいくらいの濃さ、
よりも、気持ち薄いくらい、で、ある。


ちょっと、中の〔わた〕が残ってしまっている。
味はというと、これは、「きゅうりのキューちゃん」、で、ある。

(前記の一晩干したものは、3〜4日後に水分を吸い、
戻り、食べ頃、になった。)

まあ、素人が始めて作って、結論めいたことをいうのは、
拙速の謗(そし)りは免れなかろうが、
池波先生の好物であったものが、どんなものか、
から、雷干しに挑戦したのであるが、期待していた分、
肩透かしを食った、というのが第一印象である。

さて、先の、そもそも、瓜、と、きゅうりとどう違うのか。
この問題、で、ある。少し考えてみた。

今、一般に、瓜ときゅうりで、食べる頻度で比べれば、
誰がどう見ても、きゅうりの方が多い。
では、きゅうりが、瓜に取って代わった、ということであろうか。

しかし、きゅうりというものの歴史を見てみると、
別段新しい野菜ではないようで、江戸の頃には、既に
本格的に作られていたようである。

現代において、きゅうりは、漬け物、酢の物などもあるが、
サラダなど、生で食べることが、やはり多いように思う。

しかし、これは、実は最近のことではなかろうか。
日本人は昔、生で野菜を食べる、ということは
あまりしなかった。
よく思い出してみると、筆者の子供の頃も、
まだ、サラダなどという生野菜の食い方は、一般的ではなかった。
これは、虫がいる、という衛生上の問題からであろう。

野菜は、茹でるか、漬け物にするか、酢の物にする、など、
手を加えて、食べるのが普通であった。

では、次に、瓜のことを考えてみよう。
瓜は、生では、あまりうまくはない。
せめて、塩をし、瓜もみ、で、ある。
この作業は、生で野菜を食わなかった時代には、
たいした手間ではなかろう。

きゅうりも、同じ様に、塩もみで食べる。
では、きゅうりの塩もみと、瓜の塩もみ、どちらがうまいか。
この問題である。
これは、瓜に軍配が上がる。
きゅうりは、水分が多く、塩もみにすると、大量に水が出て
これを、絞ったりすると、食感もなにもなくなる。
水分が少ない分、瓜の方が、食感もよく、うまい。

さて、では、現代において、瓜の食べられ方として、
残っているものはなんだろうか。
多くは、やはり漬け物。酒粕に漬けた、奈良漬も、やはり瓜に限る。
また、しょうゆやたまりに漬けたものも、うまい。
(ここでのポイントは、浅漬けではなく、比較的長期保存のできる
漬け方、である。)

まとめると、日本で生で野菜を食べるという習慣があまりなかった頃、
瓜は、現代以上に、皆に親しまれた野菜であったのであろう。
そして、野菜を生でたべるようになった、昭和40年代以降であろうか、
生で食ってうまいきゅうりが生産量を伸ばし、次第に、瓜に取って代わった。
瓜の漬け物は長期保存はできるが、今回の雷干しをはじめとして、
手間をかけないと食べられない。
金山寺味噌を漬けて食べるのも、きゅうりは、そのままでよい。

便利さで、きゅうりが瓜に取って代わった。

さて、もう一度、雷干し、に戻る。
瓜を雷干しにした場合、きゅうりに勝る、点、水分が少なく、
肉がしっかりし、食感がよいこと。
これは、調理、調味をするには、時間はかかるが
便利なところである。
今回は、しなかったが、雷干しには、酢漬け、という食い方もある。
きゅうりに比べ、水気が少ない分、よりきちんとした味付けができ、
時間がたっても味や食感が保たれる。
きゅうりの酢の物など、翌日には食べられない。

池波先生の好きであった、瓜の雷干し。
今回、筆者の素人の味付けではたいしたものはできなかったが、
熟練した腕であれば、きゅうり以上のしょうゆ漬けができる
はず、で、ある。

鮮度がよければよいが、時間がたてば、捨てるしかない、きゅうりと比べ、
(サスティナビリティー〔持続可能な〕と、いう意味で)
妙ないい方かも知れぬが、どちらが、まっとうな野菜なのかというと、
瓜、と、いうことになろう。


池波正太郎レシピ



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