断腸亭料理日記2025

断腸亭の年越し2025 その2

4708号

12月31日(火)〜1月1日(水)

引き続き、年越し。

お節は、ほぼ定番のものだが、どれも安定して
うまい。

ただ、定番といいながら、お節の姿も年々
変わってきてはいる。
味付けも確実に薄目なっている。

また、例えば、ここのお節も含め、正月の魚といえば
東日本は、鮭であったと思うが、今は鰆(さわら)が
入っている。
これは西京焼きで、脂もあってうまいのだが、
東北、北海道の鮭も獲れなくなり、伝統的東日本の
儀礼魚としての焼き鮭は風前の灯というところ、か。

鰆も以前は、西日本の魚であったと思うが、
今は東京湾や東北でも多く獲れているよう。

まあ、少し前にNHKで視た記憶があるが、
現代のお節というのは、大正から昭和初期に
当時の中産階級家庭用に雑誌などがまとめてきたもので、
元来の民俗的な正月の伝統食は、雑煮や先の焼き鮭など
キーになるものは除いて、当然地域毎、家毎に違っており、
煮しめなど素朴なものが中心であったのではなかろうか。
そういう意味で、変わっていくのも当然の
成り行き、なのかもしれぬ。

さて、ここでもう一つ書いておきたいこと。

栗きんとんのさつまいものこと。

品書きに書かれているが、このさつまいものこと。
「埼玉県三芳町の富の川越いも」。

これ、ご存知であろうか。
この地域のさつまいもは江戸からの伝統的農法で
作られており「武蔵野の落ち葉堆肥農法」として
国連食糧農業機関(FAO)により、2023年に
世界農業遺産」に認定されている。

認定されている「武蔵野の落ち葉堆肥農法」自体は、
ここだけでなく、もう少し広い埼玉県武蔵野地域で
行われているのだが、特にこの地域のさつまいも
栽培は注目されている。

江戸でさつまいもといえば、川越が本場とされて
きたことは、ご存知のことと思われる。

江戸落語「大工調べ」などにも大工の棟梁の
啖呵の中に「本場の川越の芋を厚っぺらに切って」
などと登場する。
今は、三芳町だが、江戸期は川越藩の上富村で
藩が奨励してさつまいもの栽培を行っていた。

伝統的農法というのは、周知の通り、武蔵野は
関東ローム層の赤土で痩せており、満足な収穫を
得られず、肥料として隣接地に落葉樹の林を設け
落ち葉の堆肥を作りこれを畑に入れていた。

この農法自体は武蔵野で広く行われてきたわけだが、
三芳町のこの地域では、藩が農家一家に対し土地を
縦長に与え、畑とその背後に堆肥用の林を設け
システマティックに農業を行ってきた。これがとても
分かりやすい形で残り、今も機能している。

数百年前から行われてきた、やせた土地を
改良するための循環型農業であり、まさに「世界
農業遺産」として誇るべきものであろう。

閑話休題。

翌、元旦。

毎度書いているが、起きると、炭を熾す。

もちろん、雑煮の餅を焼くため。

火熾しに、消し炭になっている昨夜の
燃え残りを入れ、数分火にかける。

ある程度火がついたら火鉢に移し、
一つさらに炭を足し、吹いて熾す。
火が面的に広がっていないと、餅は焼きにくい。

広がってきたら、餅網を五徳に置き、焼く。
餅は角餅。

この網、もちろん餅以外も焼けるのだが、
なぜか餅網というのが、おもしろい。

最近の餅は、表面に十字に凹みが入っており、
こんな風に、きれいに膨らむ。

拙亭の雑煮は、鶏がらのつゆに、しょうゆのみ。
具は、小松菜と里芋、鶏肉。三つ葉を散らす。

大晦日までにすべての材料に火を通しておき、温め、
焼いた餅を入れるだけ。

餅は、焼いただけで煮ないのもポイント。
従って、ちょっと堅め。

東京では標準的な雑煮ではなかろうか。
鶏ではなく鰹出汁だったり、蒲鉾が入ったり、
鴨肉を入れたりする家もあるのか。

地域によっては、餅は焼かずにつゆで煮て柔らかく
するところもあるのであろう。

ついでにいうと、具も少な目がよい。
北海道出身の内儀(かみ)さんは、結婚当初、
材料は同じだが、具沢山でかつ、煮込んで、
けんちん汁のようなものを作ってしまった。
なかなか難しいものである。

子供の頃からこの雑煮を食べてきた。
私の親爺は、やたらと雑煮が好きであった。
正月が待ちきれず、大晦日に食べたいと
言い出して、母親と喧嘩になったり。
餅もどのくらいであろうか、かなりの数を
食べていた。

私の場合、毎日二個までだし、そこまで大好き
ということもないがまあ、正月の朝飯としては、
準備さえしておけば簡単にできるし、便利だし、
やはり、そこそこうまい。

ともあれ、拙亭の場合はおそらく正月に雑煮を
食べないという選択肢はおそらく訪れない
であろう。伝統的儀礼食、それだけはあり得ない。
若い人では食べないという人も増えているのか。
わからぬが、どんなものであろうか。


以上、相も変らぬ私の正月。
本年が皆様によい年となるよう、お祈り申し上げる。

 

 

 

※お願い
メッセージ、コメントはFacebook へ節度を持ってお願いいたします。
匿名でのメール、ダイレクトメッセージはお断りいたします。
また、プロフィール非公開の場合、バックグラウンドなど簡単な自己紹介を
お願いいたしております。なき場合のコメントはできません。

 

 

 

断腸亭料理日記トップ | 2004リスト1 | 2004リスト2 | 2004リスト3 | 2004リスト4 |2004 リスト5|

2004 リスト6 |2004 リスト7 | 2004 リスト8 | 2004 リスト9 |2004 リスト10 |

2004 リスト11 | 2004 リスト12 |2005 リスト13 |2005 リスト14 | 2005 リスト15

2005 リスト16 | 2005 リスト17 |2005 リスト18 | 2005 リスト19 | 2005 リスト20 |

2005 リスト21 | 2006 1月 | 2006 2月| 2006 3月 | 2006 4月| 2006 5月| 2006 6月

2006 7月 | 2006 8月 | 2006 9月 | 2006 10月 | 2006 11月 | 2006 12月

2007 1月 | 2007 2月 | 2007 3月 | 2007 4月 | 2007 5月 | 2007 6月 | 2007 7月 |

2007 8月 | 2007 9月 | 2007 10月 | 2007 11月 | 2007 12月 | 2008 1月 | 2008 2月

2008 3月 | 2008 4月 | 2008 5月 | 2008 6月 | 2008 7月 | 2008 8月 | 2008 9月

2008 10月 | 2008 11月 | 2008 12月 | 2009 1月 | 2009 2月 | 2009 3月 | 2009 4月 |

2009 5月 | 2009 6月 | 2009 7月 | 2009 8月 | 2009 9月 | 2009 10月 | 2009 11月 | 2009 12月 |

2010 1月 | 2010 2月 | 2010 3月 | 2010 4月 | 2010 5月 | 2010 6月 | 2010 7月 |

2010 8月 | 2010 9月 | 2010 10月 | 2010 11月 | 2011 12月 | 2011 1月 | 2011 2月 |

2011 3月 | 2011 4月 | 2011 5月 | 2011 6月 | 2011 7月 | 2011 8月 | 2011 9月 |

2011 10月 | 2011 11月 | 2011 12月 | 2012 1月 | 2012 2月 | 2012 3月 | 2012 4月 |

2012 5月 | 2012 6月 | 2012 7月 | 2012 8月 | 2012 9月 | 2012 10月 | 2012 11月 |

2012 12月 | 2013 1月 | 2013 2月 | 2013 3月 | 2013 4月 | 2013 5月 | 2013 6月 |

2013 7月 | 2013 8月 | 2013 9月 | 2013 10月 | 2013 11月 | 2013 12月 | 2014 1月

2014 2月 | 2014 3月| 2014 4月| 2014 5月| 2014 6月| 2014 7月 | 2014 8月 | 2014 9月 |

2014 10月 | 2014 11月 | 2014 12月 | 2015 1月 |2015 2月 | 2015 3月 | 2015 4月 |

2015 5月 | 2015 6月 | 2015 7月 | 2015 8月 | 2015 9月 | 2015 10月 | 2015 11月 |

2015 12月 | 2016 1月 | 2016 2月 | 2016 3月 | 2016 4月 | 2016 5月 | 2016 6月 |

2016 7月 | 2016 8月 | 2016 9月 | 2016 10月 | 2016 11月 | 2016 12月 | 2017 1月 |

2017 2月 | 2017 3月 | 2017 4月 | 2017 5月 | 2017 6月 | 2017 7月 | 2017 8月 | 2017 9月 |

2017 10月 | 2017 11月 | 2017 12月 | 2018 1月|2018 2月| 2018 3月|2018 4月 |

2018 5月 | 2018 6月| 2018 7月| 2018 8月| 2018 9月| 2018 10月| 2018 11月| 2018 12月|

2019 1月| 2019 2月| 2019 3月 | 2019 4月| 2019 5月 | 2019 6月 | 2019 7月| 2019 8月

2019 9月 | 2019 10月 | 2019 11月 | 2019 12月 | 2020 1月 | 2020 2月 | 2020 3月 |

2020 4月 | 2020 5月 | 2020 6月 | 2020 7月 | 2020 8月 | 2020 9月 | 2020 10月 | 2020 11月 |

2020 12月 | 2021 1月 | 2021 2月 | 2021 3月 | 2021 4月 | 2021 5月 | 2021 6月 | 2021 7月

2021 8月 | 2021 9月 | 2021 10月 | 2021 11月 | 2021 12月 | 2022 1月 | 2022 2月 | 2022 3月 |

2022 4月 | 2022 5月 | 2022 6月 | 2022 7月 | 2022 8月 | 2022 9月 | 2022 10月 |

2022 11月 | 2022 12月 | 2023 1月 | 2023 2月 | 2023 3月 | 2023 4月 | 2023 5月 |

2023 6月 | 2023 7月 | 2023 8月 | 2023 9月 | 2023 10月 | 2023 11月 | 2023 12月 |

2024 1月 | 2024 2月 | 2024 3月 | 2024 4月 | 2024 5月 | 2024 6月 | 2024 7月 | 2024 8月 |

2024 9月 | 2024 10月 | 2024 11月 | 2024 12月 | 2025 1月 |

BACK | NEXT

(C)DANCHOUTEI 2024