断腸亭料理日記2006

小松菜煮びたし

5月15日(月)夜

ちょっと、時期外れ、で、あろうか。
小松菜、で、ある。

小松菜、と、いうものを、ご存知であろうか。
まあ、この日記を読んでいただいている方で、
小松菜を知らない、という方は、ほとんどいないであろう。

日本には、地の野菜、というのか、それぞれ、
伝統的に、その地域で、昔から作られ、食べられてきた野菜、
というものがある。伝統野菜などともいうようである。

もっとも、有名なのは、京野菜、であろう。
聖護院大根、万願寺唐辛子、加茂茄子、九条ねぎ、
京にんじん、壬生菜、、などなど。
今や、全国のスーパーで買える、一大ブランドであろう。

それ以外でも、長野県野沢温泉村の、野沢菜、なども
誰でも知っているものであろう。

関東近県では、深谷ねぎ、同じく、下仁田ねぎ、三浦大根
練馬大根、、、。

多くは、その地域の地名が冠されている。

そして、これは、東京にもある。(練馬も東京ではあるが。)
その代表がこの、小松菜、である。
今でも、東京のどこのスーパーでも売られている。
そして、小松菜は東京の立派な伝統野菜である。

江戸川区小松川。
ここが小松菜の故郷。小松川の菜っ葉だから、
小松菜。

東京の伝統野菜は、金町こかぶ、千住ねぎ、本田瓜、亀戸大根、
うど、練馬大根などあるが、この内、今でも残っているものは少ない。

小松菜は、そんな中でも貴重な存在であろう。
筆者も、むろんのこと、子供の頃から食べていた。
また、正月の雑煮にも、小松菜が入る。

そして、筆者にもっとも馴染みの深い小松菜のおかずが、
これ、で、ある。

小松菜の煮びたし。
正確には、浅利むき身と小松菜の煮びたし。

祖母がよく作っていたように思う。

冒頭にも書いたが、小松菜は冬のものであろう。
だが、理由は、わからないが、どうも、
今日は急に食べたくなった。

帰宅途中、スーパーに寄る。

牛込神楽坂駅そばのスーパーなのであるが、
小松菜でも産地違いで三種ほどもあり、江戸川区産のものまである。

東京23区でも、昔住んでいた、葛飾や、江戸川、足立などでは
現在でも農家も農協もあり、地元の新鮮野菜として、生産されている。
畑の脇で無人販売などもしている。
この本場ものにしようかと思ったのだが、一把の量がまた、多い。
葉もの野菜は一回で食べ切れないと、拙亭のような少人数では、
もうだめである。
比較的少ないものを選んで買う。(群馬産)

魚売り場を見て回るが、浅利剥き身、、、、が、ない、、。
うーむ、どうするか。
殻付きの浅利はある。(千葉産)自分で、剥き身にするか、、?!

それから、油揚げ。これも入れる。
(小松菜の煮びたしは、浅利抜きで、油揚げ、だけでもよい。)

帰宅。

当初は、本当に、剥こうかとも思ったのであるが、
よい方法を思い出した。
ボイルし、口を開けたところで、殻を取る。
かき揚げなどにするのであれば、この手は使えないが
どうせ煮てしまうのであるから、これでよい。

30分ほど、塩水に浸しておく。
(その間に、この日記の更新などする。)

貝をよく洗い、鍋に入れ、水と酒をひたひたに。
煮立てると、口を開けてくる。ここで火を止める。
殻を取る比較的簡単な方法。
イタリアンのシェフがTVかなにかでやっていたものである。
どうするのかというと、一つの殻を取り、これを洗濯バサミのように使い、
貝殻ではさんで、他の貝の身を、取っていくのである。
一つ一つを取るのであるから、そこそこ、面倒だが、
この方法は、少し手際よくできる。

ここに、しょうゆを入れ、油揚げ、小松菜、
茎の方から先に入れ、最後に葉を入れる。

火が通れば食べられるが、煮びたしなので、しばらく置き、
落ち着かせる。

完成。


冷(ひや)酒。このようなしょうゆの濃いつまみには菊正宗であろう。
それから、はぜの佃煮。

本当であれば、時間をおいて、もっとクタクタになったものが
煮びたし、らしい、かもしれない。

それにしても、よくしたものである。
浅利と小松菜はよく合う。
浅利にも、小松菜にも、かすかな苦味のようなものがある。
これが互いに相乗効果、というのであろうか、
影響し合うというのであろうか、なかなかにうまいものになる。

最近、浅利と大根の鍋を作ったが、淡白な大根の場合は、浅利の苦味が、
少し、強調されるように思う。
(むろんのこと、これは、そこがうまいのであるが。)

浅利剥き身と小松菜の煮びたし。
筆者にとっては、故郷の味覚、で、ある。



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