断腸亭料理日記2006

食は文化である。
しろしょうゆのこと。その3

3回にわたってしまった。しろしょうゆのことから、しょうゆの歴史、
筆者にとってのしょうゆ、そして、日本人にとってのしょうゆ、
のことを考えている。今日は、しろしょうゆの吸い物と、
ついでに馴染みの少ないしょうゆシリーズ。たまりのポークソテー。

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さて、やっと、しろしょうゆの味のことで、ある。

しろしょうゆ、には、独特の風味、というのか、
筆者には、甘い、と感じる、味、が、ある。

筆者は、過去に、しろしょうゆ、そして、しろしょうゆから
作られた、名古屋地方特有の調味料、しろだし、も
ともに、使ったことはある。

しろだし、は、しろしょうゆにさらに、
だしを加えて、発酵させたものである。

しろだし、になると、若干この味は変わるが、
やはり、似たような風味がある。

以前に、鶏そぼろや、牛肉のしぐれ煮、を作る時に、
このしろだし、を使ったことがある。
これは、三重県の桑名などの名物である、
貝のしぐれ煮(貝新が有名である。)、
または、松坂の牛のしぐれ煮、などを頭に描いて、
使ってみたのである。
(この他には、むろんのこと、こいくちしょうゆを使った。)
この地方の、貝や牛のしぐれ煮には、東京の佃煮にはない風味があり、
これは筆者は好きであった。
(ここまで濃い味になれば、よい、のである。)
そして、ポイントは、しろだし、を入れることかと推測し、使った。
完全に再現はできなかったが、そこそこ近い味になった記憶がある。

(本当は、しぐれ煮は、たまり、を使うのが正解であった。)

さて、今回、吸い物に、しろしょうゆを使うと、うまい、という
コメントをいただいて、あらためて、しろしょうゆ、で、
吸い物を作ってみることにしたのである。
田原町の赤札堂で、しろしょうゆ。
これは、偶然に、しょうゆ発祥の地、和歌山県湯浅町のもの。
そして、ついでに、棚の隣りにあった、たまりしょうゆ。
これは、三重県桑名のサンジルシのもの。これも買ってみた。

馴染みの少ないしょうゆ、シリーズ、である。

先日「NHK試してガッテン」でやっていた、ポークソテー
たまりで味付けしてみたらどうか、と、考えた。

さて、たまり、のこと。
これも、筆者の名古屋時代の記憶であるが、
名古屋名物の中で、味噌煮込みうどんと、もう一つ、
筆者の好きなもの。ひつまぶし

名古屋のうなぎの蒲焼は、蒸さずにそのまま焼く。
それでも、名古屋の、よいうなぎ屋のものは、柔らかい。
ひつまぶしは、短冊に切った蒲焼を上にのせたリ、
飯の中に入れたりしたもの。もちろんそのまま食べるし、
また、茶碗に取り、出汁や茶をかけて、うな茶、にする。

東京のうなぎの蒲焼で、茶漬けにすると、
味が薄くなり、とても食べられない。
これは、名古屋の蒲焼が、たまり、を使っているのではないか、
と、筆者は思っている。

これを、豚ロース肉でやってみよう、というのである。

まずは、吸い物、から。
実(み)は、安かったので、鱸(すずき)。

魚なので、昆布でだしを取る。

水から、昆布を入れ、昆布から泡が出る寸前まで加熱し、
火を止め、魚は、水から加熱した方がよいと思い、一度、冷水で冷す。

充分に冷し、切り身の鱸を三つほどに切り、加熱。
沸騰し、出てくるあく、をすくいながら、
5〜6分弱火で煮る。

OK。

ここで、しろしょうゆ、を入れる。
試しに、塩はまったくやめ、しろしょうゆ、のみにしてみよう。

少しずつ入れて、味見をする。
なかなか、味がしてこない。

量としては、随分入れた。
こいくちしょうゆであれば、
そこそこ、濃い色が付くくらいは、入れたであろう。
やっと味がしてきた。
また、うっすらと、色も付く。青みは冷蔵庫にあった水菜。

うーむ。やはり、あまい。キレがない。

塩辛さもあるのだが、独特のもったりした、味、で、ある。
これは、ある種の、旨み、と、いうことなのかも知れぬが、
どうも、筆者には合わない。

やはり、吸い物は、きりっと、塩のみの方が、うまい。
鱸は、吸い物にもよい。

さて、ついでの、ポークソテーのたまり。
「試してガッテン」の内容は、昔から、豚肉は火をよく通した方がよい、
と、いわれていたが、今、流通している豚肉は、衛生的で、
大丈夫。火を通し過ぎない方がうまい、という。

さて、鉄のフライパンで焼いてみる。
弱火で、両面を焼いたところで、たまりしょうゆ、酒、砂糖を
直接フライパンに入れ、軽く煮詰め、完成。
こいくちしょうゆよりも、色が付くのも早く、また、赤味がきれい。
焼き過ぎない、という、今回のテーマにも合っているかも知れない。

たまりしょうゆも、生産量は、やはり、中部地方が多いと、いう。
(キッコーマンHPより)
原料は、しろしょうゆが小麦が多いの対し、たまり、は、逆に大豆が多い。

地方によっては、刺身や、寿司に使う。関西が多いのであろう。
筆者の経験では、博多と、和歌山の寿司屋でたまりが出されたことがある。
これもだめ、である。甘い。
こんな甘いしょうゆで、寿司が食えるか!!、というのが、
率直な感想、である。
(名古屋地方でもたまりが出る、かもしれぬが、そもそも、
名古屋では、それ以前、酢飯の甘さで、寿司屋には、行かなかったので、
実際には経験していない。蛇足だが、名古屋では寿司は「鮓」、と書く。
なにかすっぱそう、で、ある。)

たまりは、こうした、照り焼き、蒲焼など、
甘くするものは、よかろう。

さて、ポークソテーを食べてみる。
これは、よい。

こいくち、は、香りが強く、キレがよい。
たまりは、キレはないが、濃厚。
これはこれで、また、別のうまさ、で、ある。

さて、長々と書いてしまったが
やはり、味覚、と、いうのは不思議なものである。
生まれてからずっと、毎日慣れ親しんだ味は、容易に捨てられない。
いや、年を取れば取るほど、生まれ育った味が懐かしくもなり、
そこへ帰っていく、ものでもあるのだろう。
筆者の場合は、それが関東のこいくちしょうゆ。
香りがよく、色が黒く、キレがある。

なにはなくとも、こいくちしょうゆ。

全部同じ味じゃないか、と、悪口をいわれても、よい。
理解してもらおうとも思わない。
この味が好きなのである。
それが先祖から伝わった、食文化なのである。

日本人にとっての、しょうゆの味、は、血肉にも替えがたいもの、と、
いうのは、けっしておおげさな言い方ではあるまい。

また、いうまでもなく、しょうゆは日本の味覚を代表し、
世界中に輸出される、日本の発酵食文化の旗手である。

そして、その中身は、本当は豊かで、
しろしょうゆ、や、たまりしょうゆ、というジャンルになっている
しょうゆ、以外にも、または名古屋地方以外にも、
九州には九州の、四国には四国の、日本酒の酒蔵同様に、
それぞれに味の違う地場のしょうゆメーカーは無数にある。

そして、それぞれの地元では、先祖代々
筆者が、キッコーマンのこいくちしょうゆ、を
愛するのと同様に、地元の方々に愛され、
毎日の食卓に欠かせないものになっている、はずである。



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