断腸亭料理日記2006
12月23日(土)朝
夕べ、早く寝たおかげで、早く起きてしまった。
昨日は冬至。そういえば、昨晩は、湯船にも
柚子が浮いていた。
今は、ただでさえ日の出は遅いが、ここ塔ノ沢は、
箱根の山の、谷間の沢地(さわち)、明るくなるのが遅い。
起きてしまったので、まだ暗い中、風呂に行く。
福住楼には、大小いくつかの風呂がある。
大きな岩風呂と、銅の縁のついた、丸い風呂が二つ。
むろんすべて、かけ流しの、温泉である。
色はほとんどなく、匂いもほとんどないように思う。
時間交代で、男湯と女湯が替わる。
筆者らの部屋、桜の一から、風呂場まではすぐ、である。
少し、みしみしというが、きれいに磨かれた、木の廊下を通り、
階段を降りていく。
この時間は丸い方が、男湯であった。
早朝であるが、既に先客もいた。
昨夜は、珍しく、どこやらの会社の宴会があったようであるが、
福住楼は部屋数も多くはなく、風呂場でも
他の泊り客と出会うことも、さほど多くはない。
静かであるのも、ここのよいところ。
ゆっくりと、湯につかる。
部屋に戻り、届けられていた朝刊などを読みながら、
ぼんやりとする。
8時過ぎ、担当の仲居さんが挨拶に現れ、
番頭さんとともに、布団を上げてくれる。
昨晩は我々の到着が遅かったので、仲居さんは時間外であったのか、
案内をしてくれたのは女将さんであった。ここで心付けを渡す。
さて、朝飯で、ある。
毎回出るわけではないが、ここの朝飯がよいのは、湯豆腐、
があること、で、ある。
温泉旅館に泊まった朝飯は、どうせ、前の晩、結構呑んでいることが多い。
そうすると、湯豆腐はぴったりなのである。
普通、自宅で、朝から湯豆腐をするというようなことは、
まあ、なかろう。湯豆腐自体は珍しいものではないが、朝出てくる
というだけで、余裕というのか、贅沢な感じがするものである。
(人によっては、迎え酒で、呑み直しても、よいかもしれない。)
また、ちょっと余談だが、
これは夕飯も同様のこと、最近の旅館は和洋折衷だったり、
奇を衒ったものを出すところも少なくない。
地の名物のやまめを、マヨネーズで焼いてみました、
という類(たぐい)のものである。
これ、どうなのであろうか。
やまめは、塩焼き、が、うまいのである。
作る方は飽きているかも知れぬが、食べる方は、
いつも食べているわけではない。塩焼きでいいのである。
また、きちんとした、洋食なりフレンチなりの、修行をされているシェフが
地の素材を使って、なにかする、というのならまだしも、
和食の板前さんが、ちょっとアイデアを出してみました、程度では
はっきりいって、やらぬ方がよい。
また、これは食べる方が、それを喜ぶ、ということも
背景にあるような気がする。
珍しいものが、うまいものなのではない。
あたり前のものを、きちんとうまく作る、ということの方が、
大切であり、食べる方は、普通のものの、うまいまずいをきちんと
判断できる舌と価値観を持つことの方が、肝要であろうと思うのである。
特に朝飯は、決まったものが、きちんとうまければよい。
それは例えば、温かいものは温かい、そういうことでもある。
しめじと水菜が入った、湯豆腐。
豆腐は木綿、薬味は、おろししょうがとねぎ。普通にうまい。
鯵の干物
小ぶりのものだが、温かい。
玉子焼き、蒲鉾、わさび漬け、きゃら蕗、焼き海苔、
とろろ昆布の味噌汁
玉子焼きも、温かい。
味噌汁は、濃い目の味で、なかなか、うまい。
ひじき、梅干
いかの塩辛、沢庵
奇を衒ったものは、一切ないが、これで十分。
それぞれが、ちゃんとしていることが、大切ということある。
これで、三膳も飯を食ってしまった。
朝から食べ過ぎ、で、ある。
動けなくなって、しばらくごろごろ。
これもよい。
気を取り直し、肝心の年賀状書き。
昨日の写真にもあったと思うが、部屋にあった文机
(これ、拙亭に、欲しい。)を出してきて、
ここで、書く。
途中、湯元のコンビニまで、修正液を買いに出たりする。
玄関の、帳場にいたご主人に、
「ちょっと、買い物に、、」
などと声をかけて、出掛けるもの、また、よいものである。
この項、つづく。
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