断腸亭料理日記2006
4月1日(土)夜
さて、菜飯、で、ある。
先日、豆腐の田楽を作った。
田楽といえば、菜飯。菜飯といえば、田楽。
昔は、菜飯田楽、というのはセットであったようである。
今となっては、東京などではあまり聞かないメニューだが、
実際に今でもこの、菜飯と田楽を売り物にしている文政年間創業の店
「きく宗」も、愛知県の豊橋には、ある。
池波作品に登場する食いもの、の中でも、数えたわけではないが、
最も多いものの一つかもしれない。
池波先生は、実に色々なところに、菜飯、を登場させる。
剣客商売。青山「六道の辻の菜飯屋」。
盗賊、土崎(つちざき)の八郎五(はちろうご)と
四谷の御用聞き、弥七の子分、笠徳こと、笠やの徳次郎、が
秋山小兵衛の隠宅に盗みに入ろうという、「徳どん逃げろ」。
(この一編、筆者かなり好きである。)
「剣客商売・隠れ蓑」より 池波正太郎著、新潮文庫
鬼平では、女擦(す)りのお富が、根津権現門前の茶店に入る。
土間の奥の腰掛けで、「菜飯ととうふの田楽、汁などで腹を満たし」
(今日はやれる)、と、感じる、、。
「鬼平犯科帳・二巻」より「女掏擦(めんびき)お富」池波正太郎著、文春文庫
同じく鬼平。乞食坊主であった、平蔵の昔馴染みの一人、井関録之助登場の回。
録之助は、塒(ねぐら)の品川から、白金の通りを托鉢をしながら目黒まで行き、
目黒不動で、菜飯と田楽を食う。
「鬼平犯科帳・五巻」より「乞食坊主」池波正太郎著、文春文庫
捜し始めたら、切りがない、、。
最初に作ってみたのは、いつであろうか。
過去の日記を見ると、99年、で、ある。
これより前に、作っているようである。
田楽よりも、菜飯の方は、最初の印象は、
思ったよりも、うまいものであるということ。
そして、やはり、田楽同様、素朴なものである。
さて、今日は、夕飯は妻が作ったもので、呑み、
最後の仕上げに、飯を食う、と、いうシーンである。
そこで、冷蔵庫を見、思い付いたのが、この、菜飯、で、あった。
おでん用に煮た大根の残りである。
飯は炊けている。
葉を洗い、そこそこ細かく刻む。
この加減は、5mm以下、であろう。
あまり細か過ぎても、見た目に大根の葉、らしさが
感じられなくなる。
大根の葉は繊維がとても強く、5mm以上であると、
食べずらい。
4〜5mmがよいところだろう。
刻んだ葉は、塩揉みし、しばらく置く。
ついでに、味噌汁も作ろう。
冷蔵庫を見るが、実がない。
まあよい。ねぎだけ。根深(ねぶか)汁、と、いうことにしよう。
出汁は、煮干にしよう。
煮干は腹を取って、軽くレンジ加熱。
腹を取ると、生臭味が少ない。
沸騰した湯に入れ、煮出す。
ねぎを切って入れ、味噌(信州味噌)を溶く。
沸騰する直前まで、再加熱。
菜飯。
茶碗に飯をよそい、塩揉みをした大根の葉を混ぜ込み、完成。
こんなものである。
大根は冬のものだが、菜飯となると、春らしい感じがする。
ポイントは、大き過ぎてもだめだが、
適度に大根らしい存在感がよい。
また、塩味は、多少強めの方が、うまい。
呑んだ後には、なかなか、よいものである。
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