断腸亭料理日記2005
11月24日(木)夜
週のまん中、水曜日が休日だと、
なんとなく、木、金と、リズムにのれない。
いや、休みモードが継続してしまう、といった方が
正直であろう。
そんな気分で、今日は夕方から、
池之端(池の端)藪蕎麦へ行くことに決めていた。
池之端藪は、20時までである。
19時台には店に入らなければならない。
そうすると、オフィスを出るのは、19時前。
牛込神楽坂から、大江戸線、上野御徒町。
筆者には、通勤ルート。
その途中下車、と、いうことに、なる。
しばらく来ていなかった、で、あろうか。
大江戸線の上野御徒町駅(銀座線、上野広小路駅)。
春日通りと中央通りの交差点から、池之端藪まで、
裏路地を選んで歩く。
この間までは、随分といた、客引きも、ほとんど見かけない。
新宿などでは、例の都条例の施行で4月からであったか、パタッと
客引きがなくなったが、この界隈は、4月以降も
まだまだ、盛んであった、と、思う。
取締りが遅れて、今になって厳しくなったのであろうか。
いなくなると、それはそれで、なんとなく寂しいような気もする。
路地を抜け、池之端仲通り。
池之端藪。いつもながら、端正な店構え、で、ある。
店の前に立つと、なんとなく、ほっとする。
筆者、この界隈の、猥雑で、パワーがあり、新宿ほどではないが、
ちょっと怖いところもある雰囲気は、決して、嫌いではない。
しかし、池之端藪に来たい、気分と、この街の雰囲気が
違っているのである。
格子(こうし)を開けて入る。
テーブル席は、ほとんど、埋まっている。
「お座敷へどうぞ。」という声で、
座敷の一番店の入り口寄りに座る。
前もこの場所であった。
ここは、店全体が見渡せ、なんとなく、落ち着く場所である。
小さな窓から、店前の植木なども見える。
座敷の場合、よい席は、最も奥か、ここ、で、あろう。
この店は、このような平日の夜が、よい。
人は入っているが、比較的、静か、で、ある。
お酒をお燗で、もらう。
つまみは、なににしようか。
前回は、はしらわさび、であった。
すいとろ、にしよう。
すいとろとは、いわゆる、つけとろそばの、そばなし。
とろろの出汁割り、で、ある。
おねえさんの注文を通す声が、よい。
やはり、神田藪も、この声が名物であるが、
筆者は、こちらの声の方が好きである。
店が狭いせいか、神田ほどは、大きな声を出さない。
四角いお盆にのせて、出てくる。
一合の徳利。
徳利を入れる、いわゆる、袴(はかま)は、
少し剥げた、塗りの一合升、で、ある。
徳利の形が、よい。色は真っ白である。
なんの、へんてつ、もないようだが、
ちょっと、胴の部分が丸くふくらんでおり、
徳利らしい、徳利、である。
また、猪口。
なんということもないのであるが、薄手で、大きさも小ぶり。
端正である。
そばみそ。
そばの実が入った舐め味噌である。
これは、酒を頼むと、付いてくる。
すいとろは、青海苔がまぶされている。
ずるずると、すすりながら、のんびりと、やる。
そばは、なににしようか。
鴨ざる、もよいが、ちょっと気分をかえて
“かき南ばん”にしてみよう。
これは、冬のメニューである。
“かき南ばん”は、上野藪のものが、印象に残っている。
ここでは、初めてである。
かきは、五個ほど。焼きねぎが載っている。
焼きねぎは、温かく、噛むと口中に甘さが広がる。
上野藪の、かき、は、一度炒めてあったと思われるが、
ここは、湯通し、のみ、かもしれない。
かきだけをとれば、上野藪の方が、印象は強い。
新そばと、かき、の風味が溶け出した、つゆ、とあわせて、
全体として、上品な、一杯であろう。
そば湯を入れて、つゆも全部飲み干す。
うまかった。満足、で、ある。
(勘定は、¥2700)
前に、“趣味そば”のことを書いた。
ここ、池之端藪は、筆者にとっては、いわゆる趣味そば、
の、対極に位置する。
もちろん、いろいろな違いはあるが、
一言でいうと、端正さ、が、よい。
店のたたずまい、店内、
不親切ではない、適当な敷居の高さを含んだ客あしらい、
注文を通す声、徳利、袴、猪口、お盆、
器、丼、もちろん、本体のそば。
奇を衒わず、完成された、江戸蕎麦と、それを食わす空間。
それらは、みな、端正、で、ある。
これがよい。
『募集』
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