断腸亭料理日記2005

「趣味そば」のこと

趣味そば、と、いう一群のそば店がある。
東京では、最近どんどんと、また、開店している。
趣味そば、誰がつけたのかわからぬが、よくつけた、という名前である。

藪や、砂場、長寿庵、、、など、伝統系の、あるいは、町のそば屋、ではなく、
手打ち、そば粉にもこだわって、夜は、つまみ、も、充実して、
内装、インテリアもちょっと、こだわって、、。
趣味そば、なんとなく、おわかりいただけようか。

今、また、どんどんとできているが、これはこれで、既に、
もはや、新しいジャンルでもなく、3〜40年経っている店も、ある。

ズバッというと、筆者、この系統は、どうもいけない。

しかし、もちろん、内容次第である。
好きな店もある。挙げれば、稲荷町・おざわ

それでは、何回も行ける、行きたいと思える店とは、どんなものなのか。
誰でも同じであろうが、

一.うまいこと

一.居心地がいいこと

一.値段が適正であること

この三点であろう。
あるいは、これらのバランスであろう。

まず、一つ目。うまいこと。
何回も書いているが、そば屋の場合、筆者は、
つゆにある一定以上の、しょうゆの濃さがないと、ダメである。

趣味そば系には、そばの風味を味わうために、と、いうことなのか、
薄いところが、多い。
どうも、これが、筆者とは、相容れない。
東京育ちのせいか、こればかりは、ドーシテモ譲れない。

並木藪ほどにしろ、とはいっていないが、もう少し、
なんとかならないのか、と、思ってしまう。
(そのくせ、薄口しょうゆを使っているのか、塩気は高かったりする。)

また、これは、論外であるが、
そばの修行はしているのであろうが、
その他は素人料理という店。
かき揚げの中の衣が生であったり、つまみの、ぬた、が
水が出て食えたものではない、、などなど、。
また、それらを指摘されても、それが
酷い、ということに気がついていない、、、。

二つ目、居心地。

趣味そば系で、鼻に付くのは、いわゆる、コジャレタ内装。
コンクリート打ちっ放しの壁だったり、
新和風、というのであろうか。

これはなにも、そばに限ってはいない。
今、いたるところにあるが、隠れ家風・和食屋、と、いうやつ。
筆者のオフィスの近所でもある、神楽坂あたりには、よくある。
だいたい、隠れ家風、とは、なんだ?ナニから隠れるのだ?
こうした、インテリアばかり気を使っているところは、元来、
信用しないことにしている。そちらにばかり気を使って、
たいしてうまくもない、こと、火を見るよりも明らかではないか。
(もちろん、例外もある。また、端(はな)っから、うまいもの、
を、求めるのではない、雰囲気の業態と、思えばよいのであろう。)

話がそれてしまった。趣味そばである。
もうひとつ、いけないのが、態度、である。
態度がでかい。もしくは、慇懃無礼。

どちらかというと、筆者の年代より、若い人が始めた、趣味そば。
でかい態度は、主張がある、と、いうところからきている。

彼らの主張は、どちらかというと、
今流行りのスローライフ、の、ようなもの。
無農薬、自然食、、いわゆる田舎暮らしの方向、で、あろうか。
(味が薄い、というのも、このあたりにつながっているのかもしれない。)

本来的には、ポリシーがある、のが問題なのではなく、
それに賛同できるのか、できないのかと、いうことである。

池之端藪などは、慇懃無礼、客を見て、対応を変える、
など、気分のよいことばかりではない。
しかし、それでも、自分にとって、行く価値があれば、その敷居の高さ
を越えても、通いたい、と、思うのである。

しかし、筆者が居心地の悪さを感じてしまうのは、
田舎暮らしの方向、が、どうも馴染めない、と、いうこと。
本来の、街暮らしにも、人間らしい生活、と、いうようなものは、
立派にあるのではなかろうかと思うのである。

江戸・東京には、四百年の、街としての歴史がある。
昭和30年代まで東京にあった、江戸のリズムで生活することも、
いや、それが、東京の本当の、生活、だと思っている。

そのひとつの答えが、路麺であり、立ち呑みではなかろうか。

また、東京では、初夏になれば、鰹(筆者は生利節だが)や、
瓜もみを食う。夏は、谷中しょうがや、枝豆を食い。
秋風が吹けば、毎日、秋刀魚を食う。
東京で生まれ育った者には、それでよいし、それがよい。
(つけ足すと、「メヒコ」もよい。)

どちらが価値があるのか、ということではない。
今、あまり語られていないが、別の方向もあるのでは?という提案である。
そして、趣味の問題。
筆者は、江戸のリズムが好きである、と、いうことなのである。

最後の価格。

あの、田端の路麺、かしやま、である。

あれだけ、材料にも、出汁にも気を使い、麺にも、
天ぷらの調理にも気を使い、あのうまさで、あの値段である。
趣味そばは、3〜4倍、悪くすると、5〜6倍、の、値段である。
どうなのだ?

ちょっと、変則であるが、趣味そば、に、ついて、
思うところを書いてきた。

この文章、実は、牛込払方町に7月にできた、「石臼挽き・手打ちそば・
一休」
について、書こうと思ったのであるが、こんな方向になってしまった。

一休は、あれから、大分、落ち着いてきた。
ごく近所でもあり、通っている。
一休は、上記のような、趣味そば、では、ない。
味も濃く、価格もリーズナブル。
太い(不揃い)な切り方のため、田舎そば風などと書いたが、
今は、細くなっている。(ここを目指していたのか、、。)
まだまだ、これから、進化していくのかと思う。





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