断腸亭料理日記2005
8月8日(月)夜
先日、読者の方から、ご推薦をいただいて、懸案であった
神田須田町のとんかつ・勝漫。
須田町は、靖国通りをはさんで、南と北にある。
同じ須田町でも、靖国通りの北側は、まつや、
裏に入って、あんこうのいせ源、甘味処の竹むら、それから、
神田藪など、なんども足を踏み入れていた。
しかし、この勝漫がある、南側の路地は、考えてみると、
ほとんど、歩いたことがなかったのである。
北側は、今の交通博物館、旧神田駅の駅前にあたり、また、
奇跡的に、戦争でも焼け残り、昔の街並みが残っている。
歩いてみて気が付いたのであるが、この、南側も
ひょっとすると、焼け残ったのではなかろうか。
植木のある路地裏といい、各家々の雰囲気といい、そんな匂い。
看板建築である。
またまた、余談で恐縮である。
路上観察学では昭和以前の東京によくあった商店の建物を、看板建築という。
見ればお分かりになると思われるが、銅などで葺(ふ)かれた看板のような表、
が、目印である。看板建築とは、藤森先生という、れっきとした東大の建築学の
先生が唱えられている、と、いう。出所は、いい加減なものではない。
さて、勝漫。看板が出ておらず、のれんだけのため、
ちょっと、わかりずらかった。
靖国通りから、吉野家の角を入り、左側に、天丼のいもや、などがある。
二本目を右に入り、右側。二軒目。
(以前にはこの右に入る角にガソリンスタンドがあったようであるが、
今は、マンションになっている。)
戸を開けて入ると、ちょっと、緊張感が漂っている。
ん?この緊張感、雷門のうなぎ色川に、似ている、ような、、。
近い匂いがする。
戸口に近い左側に囲炉裏のようなテーブル席。
調理場前にカウンター席。
カウンター席に座る。
店は、調理をされる、お父っつぁん、と、
女将さんであろうか、女の方、の二人。
お父っつぁん、というには申し訳ないかも知れぬ。
お兄さん、か。
40代後半か、50代前半といった年恰好である。
頭は短髪で、ごま塩。目が鋭い。
色川の親爺さんに似ているのは、ここである。
しかし、違うのは、寡黙な感じであること。
(色川の親爺さんは、喋り始めると、止まらない。)
店内を見回すと、提灯や、千社札なども飾られている。
あ〜。やはり、お神輿?。
いただいた情報通り、小さな店であるが、店内全体が、筋が通ったような
なにか、ピーンと張り詰めた、印象がある。
特ロース定食を頼む。
満席に近いが、皆、静か。無駄口を叩いている人は、あまりいない。
たまたまであろうか。
ジャズが静かに流れている。
さてさて、一人で作られている割りには、早くできた。
ご飯、赤だし、お新香、ソース入れに使うのであろう、空の器。
そして、メインのとんかつ。
ソースは、よくある、常滑焼きの赤茶色の、かめ、に入って
カウンターに置かれている。
料理を並べるタイミングで、この、かめ、のふたを
あけていってくれる。
細かい配慮。つまらないことのように思われるかも知れぬが
これは、なかなかできることではない。
行き届いたことといえよう。
また、ついでであるが、カウンターにはソースのかめ、の他に、
ウスターソース、しょうゆ、粗塩、小粒の梅干などの容器が
一緒に、布の上に、並べられている。
これが、無造作に並んでいるのではなく、実に整然と、
びっしりと、すき間なく並んでいる。
このあたりも、この店の、筋の通り方を、体現している
ように感じられる。
さて、肝心のとんかつである。
なかなかに、大きい。
横にも包丁が入れられ、一口で食べられるように、切られている。
衣の色は少し濃い目で、パン粉はちょい、粗め。
そして、サクサク。
ロースである。けっこう、脂身は多めであろうか。
揚げ油も、店に入ったときの香りから、
ラードを使っている、と、思われた。
しめて、けっこう、ずしんと来る食べ応えである。
肉自体は、柔らかく、うまい。
脂身には、例によって、からしをつけて食べる。
赤だしは、なめこ、と豆腐。
オーソドックスで、うまい。
ご飯は固めで、これも、うまい。
夏バテをした胃であったが、なんとか、完食。
几帳面な店の雰囲気とはむしろ逆な、パワーのある
とんかつであった。
筆者の場合、体調万全で来た方がよいかも知れぬが、
なかなか、味のある店。
なにか、笑顔になれる、店ではなかろうか。
帰りがけ、勘定をしていると、女将さんに
筆者、口の周りに、ご飯粒を付けているのを
指摘されてしまった。
笑顔、である。
『募集』
「断腸亭に食わせたい店、もの」、随時、大募集。
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