断腸亭料理日記2004

浅草・そば・尾張屋

月7日(水)第一食
今日は家の用で休みを取る。

11:30に浅草で、用が終わる。
朝から何も食べていなかったため、何か食べよう。

尾張屋で天丼である。
尾張屋は、前にも触れたが、筆者の行き付けのそば屋のうちの一軒である。
浅草雷門通り、尾張屋。実は、これ、二軒ある。

いい尾張屋と、そうでない尾張屋。
一軒は雷門のすぐそば。雷門に向かって右側。
こちらは、いわゆるハトバスコースというやつである。
推して知るべし。まあ、入らない方が無難。
まずくはないが、店員の扱いのひどいこと。
観光客相手だと、こんなものになってしまうのか、と、いう、見本のようなものである。
観音様、雷門周辺はこうした店が多い。
気を付けないといけない。名のみの老舗。

筆者の行き付けはもう一軒の方。
雷門に向かって左。通りを旧仁丹塔方向にしばらく歩いたところにある。
もとはこの二軒同じ店であったのか、今でも同じ店なのか
筆者は知らないが、こんなにも違うのかというほど違う。

さらに、こちらの尾張屋、筆者にとっては特別な店でもある。
筆者のペンネーム「断腸亭」。元祖断腸亭は作家永井荷風先生である。
ここで、永井荷風について長々語れないが、その生き方は
筆者の理想とするところで、断腸亭という名前を勝手に使わせていただいている。

尾張屋は、この断腸亭永井荷風先生が晩年通われ、倒れられ、
最期となったのも一説によると、ここであるという。
今も、店には、先生の写真が飾られている。

そばも、ご飯物も普通にうまい。
昼時に行くと、近所の店のおかみさん、旦那、おじいちゃん、などが
かなりの割合で頼んでいるのが天丼である。

丼からはみ出る、大きな海老が二本。甘辛の濃い江戸前のてんつゆで
しっかり煮含められている。
そこで、筆者もここでは、天丼に決めている。

11:30開店直後だというのに、一階は既に、客が一杯。
天丼と、お吸い物、おしんこ。
(あたりまえだが、おしんこが干からびている、
というようなことは、もちろん、ない。)

ここがよいのは、これだけではな。
いつも帳場に座っている太った、おかみさんである。(今日はいなかった。)
客あしらいというのであろうか、態度、物腰、
これがほんとうの東京(江戸?)の客商売のものなのではないか、と思わせるのである。

前に、雨の降る日、この店に入り、勘定を払うため帳場に立った。
手には、傘。財布を取り出し、もう片方の手には、文庫本。
どなたにも、経験があろうが、待っている人でもいれば、
ちょっと、あわててしまう場面であると思う。

普通であれば、帳場の側は黙って待っている。

この、おかみさんは、にっこり笑って、
「こちらに置いて下さい」と脇にあった椅子を指し示してくれた。
なんということはないように見えるが、なかなか、言えないセリフである。
よく気が付くものである、と感心した。

そんな、行き届いた、おかみさんがいるためか、店員全員、サービスの水準は高いと思う。

変わらないでいてほしい店の一つである。

過去の尾張屋

TEL 03-3845-4500
〒111-0032 東京都台東区浅草1丁目7−1 
地図

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