断腸亭料理日記2024

南稲荷町・手打ち蕎麦・志づや

4559号

5月7日(火)第一食

連休明け。

曇りで雨の予報も出ている。

今日は、例の南稲荷町の手打ちそば[志づや]へ
行ってみることにした。

ここには、まだいくつか食べてみなければ
いけないものがある。

一つは精進のつゆ。
[志づや]にはこれがあって、気になっていた
のである。

かなり珍しかろう。
鰹節など魚系の出汁を使わないそばつゆ。
おそらく、私自身経験はないと思われる。

今風にいえば、ヴィーガンのそばつゆ?。

なぜこんなものが存在するのか。
不思議に思われるかもしれない。

歴史的なものである。

そもそも、そばの我が国での歴史は稲作以前、
縄文の頃には食べられていたようで、かなり古い。

そばの原産地は大陸、中国の雲南省あたりという
説が今は有力のよう。(ウィキ

野生のものではなく、縄文期に人を介して
大陸から渡来してきたということである。
むろん、縄文期にも交易はあったわけである。

今もそうだが、寒冷な山間地でも育てられ、縄文以来
日本中津々浦々で、長く長く食べられてきたわけである。

古くは、殻だけを取って粒を粥に。また、粉にし、
今のそばがきのようにして。

そして、室町時代あたりからであろうか、
精進料理としてお寺でもよく食べられていたよう。

その後に、練って伸ばし切った麺状にした今の
そばの形にするものができた。これがそば切り。
文献に現れる最も古いものは天正2年(1574年)
戦国時代、信州木曽あたりのよう。(ウィキ

一方、お寺以外の一般のそばつゆでは鰹節などを使った
ものが江戸期初め頃には生まれていたという。

江戸中頃、享保期、18世紀前半、浅草芝崎、今の
西浅草三丁目合羽橋通り沿いにあった称往院の道光庵
というところのそば切りが江戸一であると、評判で
あったという。かなりピンポイントだが、「続江戸砂子」
(享保20年(1735年)刊)という文献などに出てくるよう
なので確かなのであろう。

当初は檀家の人々に振舞うためのものが、うまいと
知られるようになり、一般に商売として提供するように
なったという。

東京のそばやの屋号に○○庵というのが多く存在
するが、それもこのあたりがルーツのよう。

精進のそばの食べ方もいろいろあったよう。
これは寺に限らないが、大根おろし、あるいは、
そのしぼり汁。また、これに、後のしょうゆの
原形である味噌の上澄みで味を付けるといったもの。

福井県のそば、永平寺そばなどもこのあたりが起源
なのであろうが、今も福井のそばはおろしが
基本である。

そういえば、東京でも深大寺はそばが名物である。
やはり寺とそばは因縁浅からぬものがあるよう。

そして、江戸期、しょうゆ、みりん、などに鰹節の
代わりに、椎茸や昆布の出汁を使ったつゆが、お寺の
精進そばのものとして生まれたようである。

こういった歴史背景のもとに精進のつゆというのが
存在してきたのである。

で、まあ、一度食べてみなくては、と、考えた。

精進そばせいろ、1,100円に、かつおぶしご飯生わさび付き、
350円をつけた。

かつおぶしご飯はふんわり、たっぷり。
美しい。

そば猪口につゆを開けて写真を撮るべきであったが
まあ、見た目には通常のつゆとまったく区別は
つかない。

最初はわさびなしで、いってみよう。

一箸分つまみ、下1/3つゆにつけ、一気に手繰る。

ふむ。

なるほど。

なんというのであろうか、
気持ち、軽い感じ、か。

ただ、物足りないといった感じは、一切ないのは
流石であろう。

「出汁に鰹節を使わず羅臼高級昆布と
干し椎茸を【水出し】で出汁を作ります。」

とのこと。

十二分にうまい。

かつおぶしご飯は、まあ、ねこまんま。
知った味。

さて。

精進のそばつゆ。
どんなものであろうか。

私などは、ヴィーガンでもないし、
無理をして食べる理由はない。

現代日本人の圧倒的多数は、そうであろう。

ほぼ見ないのもそういうこと。

ではなぜここにあるのか。
今度聞いてみようかしら。

 

志づや

台東区東上野2-4-3
03-6284-4295

 

 

 

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