断腸亭料理日記2024
4531号
3月26日(火)第一食
さて、雨、で、ある。
雨だと、遠出をしよう。
最近、そんなことに気が付いたので、
今日は、麻布十番で、そば。
麻布十番で、そば、といえば[永坂更科]なのだが、
今日は、そうではなく[更科堀井]の方へ行こう。
[更科堀井]の方は書いたことはなかったか。
拙亭から麻布十番までは、大江戸線で一本。
一本といっても、ぐるっとまわって、30分も
かかるのだが。
[更科堀井]は十番大通り沿いだが少し歩く。
地図を出しておこう。
現代。
江戸も。
この界隈の江戸の地図を出すのは初めてかもしれぬ。
江戸の頃は、毛利家長州藩邸(=現テレ朝)から始まる、
六本木と元麻布の台地にはさまれた谷筋。
江戸の地図にも書かれていないが、おそらく古くは
この谷筋に川があったのであろう。
山手の下町などと、わけのわからない形容詞が
付けられたりもする麻布十番。
通りの配置、町割りは基本的に現代まであまり
変わっていないように見える。もちろん、拡幅は
あるが。
台地と谷なので、もちろん碁盤の目ではなく、くねくね。
東側は一之橋で川は古川。ここで90度曲がって、
南から流れてきたのが東へ。
上流は、あの渋谷川で、戦前までは、新堀川、または
金杉川と呼ばれていたよう。
この江戸の地図は幕末近くのものだが、麻布十番
という町名はないのに気が付く。
江戸でも麻布十番は古い地名で、通称としてずっと
呼ばれていたよう。正式町名になったのは、昭和37年
(1962年)とのこと。十番の由来は 「港区ページ」に。
長州藩邸の上屋敷は丸の内であったが、江戸城から離れた
ここが大きく、幕末などは勤王の志士の江戸での拠点
にもなった。また、日本海海戦の乃木将軍は長州藩出身で
幕末、ここで生まれている。
台地と台地の間なので、北も南も坂だらけ。
鳥居坂、於多福(おたふく)坂、闇(暗闇)坂、一本松坂、
などなど。闇坂なんという名前になっているだけに、
木々が生い茂り、昼なお暗いところもあったわけである。
坂は物語にしやすいのか、池波作品にもいくつか登場する。
そして、長(永)坂。
今は、上を首都高が走り、溜池方面に向かうが、
江戸期も、江戸中心部へ向かう本道といってよいだろう。
そして[永坂更科]である。
店名は「布屋太兵衛永坂更科」。
寛政元年(1789年)創業という。
松平定信の頃で、江戸時代のちょうど真ん中。
「代々、蕎麦打に長じていたことから、八代目清右衛
(初代布屋太兵衛)は、領主のすすめで故郷の更級郡の
「更」と領主保科家の「科」を賜り、それに永坂の
地名をつけ加え、 『永坂更科』と命名された」という。
保科家は上の江戸図の少し南に屋敷があり、上総飯野藩
(富津市)二万石で普代。
そして布屋太兵衛は長坂の途中東側にあるお稲荷さんの
門前に店を開いた。
独自の白いさらしな粉のそばは、江戸でも名を知られた店に
なったわけである。
幕末にはお稲荷さん両側が店であったよう。
黒い藪系と白いさらしな系、江戸東京を代表するそばに
なっていったわけである。
落語「時そば」の台詞には「俺はそばっ喰いだから永坂に
通ってるんだ」と出てくる。
だが、実は問題が二つある。
まず一つ目の問題は、この[永坂更科布谷太兵衛]と
[更科堀井]との関係で、ある。
これには[更科堀井]のページに詳しい記述がある。
もともとは[永坂更科]の創業家は堀井さんで、昭和初期
不況のあおりなどで、廃業。[永坂更科]や[布屋太兵衛]の
屋号を手放すことになったという。昭和56年(1984年)今の
場所に廃業時の子息で現当主である八代目が[更科堀井]の
名前でさらしなそばの店を再建した、とのこと。
で、もう一つ、わかりずらいのだが、もう一軒この界隈には
[永坂更科]を名乗る店があるのである。
ここが坂に一番近い。坂下の、新一之橋の交差点角。
店名は[麻布永坂更科本店]。 ウィキに 経緯が書かれているが、
過去訴訟にもなっていたよう。
三軒みんな経営が違うのである。
元来の江戸からの[永坂更科布谷太兵衛]の屋号を名乗る店。
[布屋太兵衛]の店名ロゴには浮世絵のそばを手繰る絵が
付いているのを憶えておいでの方も多いと思う、それがここ。
総本店の場所は、十番大通り沿い新一之橋寄り。
そして実際の創業家である[更科堀井]。
さらにもう一軒の布屋太兵衛の付かない[永坂更科]の三つ。
チェーン展開して支店が最も多く、よく見るのが浮世絵付きの
[布屋太兵衛]。
[更科堀井]の支店は立川と日本橋高島屋の二店舗。
もう一軒の坂下の[永坂更科本店]には支店はないよう。
[堀井]が違うのはわかりやすいが、二軒の[永坂]の
違いがわかりずらい。
つづく
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