断腸亭料理日記2024
4478号
1月5日(金)
さて、初芝居、で、ある。
初芝居というのは、季語で新春に初めて見る
芝居のこと。
今年は、国立、のみにした。
国立劇場といっても、昨年秋までで、今は改築に入っている。
代わりに、初台の新国立劇場で。
歌舞伎座は、というと、正直のところ、食指をそそられなかったから。
この顔ぶれ、演目が初芝居?という印象である。
昨年の歌舞伎界はたいへんな一年であった。
むろん、猿之助の一件。
そういったことも影響しているのか。
様々な意味で、悩み深く、大打撃のようにみえる。
と、いうことで、毎年観ている菊五郎一座の国立の
初芝居、で、ある。
上演場所は、新国立劇場だが、タイトルは国立劇場で
あくまで国立劇場の芝居という意味か。
5日は初日。
初台というのは、昔からうろうろしていたが、
新国立劇場に入るのは初めて。
中劇場。
私など縁もないのだが、バレエの劇場なのか。
例によって、演目と出演者を書き写しておく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
文耕堂・長谷川千四=作
梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)一幕
鶴ヶ岡八幡社頭の場
竹田出雲=作
芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)一幕三場
−葛の葉−
勢獅子門出初台(きおいじしかどでのはつだい) 常磐津連中
『梶原平三誉石切』
梶原平三景時
尾上菊之助
大庭三郎景親
坂東彦三郎
六郎太夫娘梢
中村梅枝
俣野五郎景久
中村萬太郎
梶原方大名
市村竹松
梶原方大名
市村光
青貝師六郎太夫
嵐橘三郎
囚人剣菱呑助
片岡亀蔵
ほか
『芦屋道満大内鑑―葛の葉―』
女房葛の葉/葛の葉姫
中村梅枝
信田庄司
河原崎権十郎
庄司妻柵
市村萬次郎
安倍保名
中村時蔵
ほか
『勢獅子門出初台』
鳶頭音羽の菊五郎
尾上菊五郎
鳶頭鶴吉
尾上菊之助
鳶頭亀吉
坂東彦三郎
芸者お梅
中村梅枝
鳶頭萬吉
中村萬太郎
手古舞おゆう/若い者勇吉
坂東亀三郎
手古舞おふみ/若い者文吉
尾上丑之助
手古舞おひで/若い者新吉
尾上眞秀
手古舞おせい/若い者 清吉
小川大晴
世話人松島屋亀蔵
片岡亀蔵
世話人山崎屋権十郎
河原崎権十郎
芸者お橘
市村萬次郎
芸者お時
中村時蔵
ほか
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一つ目と二つ目が狂言芝居で、三つ目は初春祝いの踊りの幕。
芝居はどちらも私は初見。
中劇場。ロビーに看板。
公演前に、国立の初芝居恒例であった獅子舞も
登場していた。
適当な広さ。席は後ろのブロックだが傾斜があって、
なかなか観やすそう。
花道はないようだが、下手側に欄干のようなものがある。
こんな劇場だが、ちゃんと歌舞伎の定式幕。
上に下げられている提灯は天女が入った国立の定紋が主で
新国立劇場のマークのものも見える。
ちょっとおもしろい景色であろう。
日本の劇場は席での飲食は昔からの伝統であるが、
ここでは禁止。
開演前に、眠くなるので酒はなしで
ロビーで売っていた[まい泉]のカツサンドを
食べておく。
柝(き)が入って、一つ目『梶原平三誉石切』の開演。
最初に書いておくが、三つともよかった。
正月らしさもあり、役者も好演、個人的には観たことの
ない芝居で、勉強になった。
慣れない場所だが、さすが、菊五郎劇団の芝居で、
国立の興行と感じた。
『梶原平三誉石切』から書いてみる。
梶原平三景時は、ご存知であろうか。
一昨年のNHK大河「鎌倉殿の十三人」で奇しくも中村獅童が
演じていたので記憶には新しいか。
鎌倉幕府開府前の源平合戦で源氏方の主要な武将。
文耕堂・長谷川千四作。初演は享保15年(1730年)、
大坂・竹本座で人形浄瑠璃。
すぐに歌舞伎に移され、当初の外題は「三浦大助紅梅たずな
(みうらのおおすけこうばいたづな)」。
三段目が人気になりそこだけ上演されるようになり、
この外題になったよう。
ただ、頻繁に上演されるようになったのは意外に新しく
大正期以降で、初代中村鴈次郎、十五代目市村羽左衛門、
初代中村吉右衛門が原作の改変も含め、型として
完成させたものらしい。
そう。
これ、梶原を演ずる菊之助のお内儀(かみ)さん(奥さん)の
お父さん、亡き二代目吉右衛門から受け継いだ芝居なのである。
私のホームグランドである落語界では、誰かに教えられれば
その噺を演じてよいという決まりがある。
歌舞伎ではあまり明確には説明されないが、やはり同じような
ことがあるのであろう。
(まあ、芝居によっては実際にはもっと厳しいのか。例えば、
市川團十郎家の歌舞伎十八番は特別で團十郎家だけ。團十郎が
子供に伝えるだけ、なんということもあるように見える。)
ただ、プログラムで菊之助は、既に吉右衛門が亡くなって
いるからか、一門の役者に習い、映像を観たと語っている。
菊之助の台詞で、吉右衛門の口調を彷彿とさせる部分もあり、
また、歌舞伎でいう役の性根、その役の本質を過不足なく
演じていた。
昨年の正月も感じたが、菊之助は変わってきた。
やればできる、じゃないか?、と。
いや、もともとできたのではないか。
この人、やはり役者としては、傑出していると私は思う
のである。
以前は、やる気がなかった?。
少なくとも、好んではしたくなかった?。
ほんとに演りたいのはジブリだったり、昨年のファイナル
ファンタジーなのかもしれぬ。
わからぬが。
歌舞伎立役(たちやく)人間国宝、尾上菊五郎の長男である
尾上菊之助。特に「め組の喧嘩」だったり「河内山と直侍」の
そばや、などなどで美学たっぷりに江戸っ子を演じる、
江戸世話物がお家芸の家である。
いや、それは既定のものとして、それに留まらず、
もっともっと、大きな役者になってほしい。
(その中に、ジブリもFFもあってよいだろう。)
期待は大きい。
つづく
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