断腸亭料理日記2024
4626号
8月17日(土)夜
さて、土曜日。
まだ、世間はお盆休み、か。
今日は、ご近所の天ぷらや、蔵前[いせや]へ。
ここのルーツは、吉原大門前の[土手の伊勢屋]。
明治創業のかなりの有名店でご存知の方も多かろう。
土手というのは、今は大門前の通りが土手通りと
いっているのに残っている。ここに山谷堀という堀、
というのか、用水路がありその土手のこと。
吉原が舞台の落語などにはよく出てくる。
山谷堀は戦後まであったよう。
さて。
蔵前[いせや]の今の町名は蔵前四丁目。
そして現町会名は栄久町で、私の住む元浅草七軒町と
同じ鳥越神社の氏子町になっている。
それで、なんとなくお仲間感がある。
そんなこともあって、ここが蔵前という町名なのは
私にはちょいと違和感がある。
むろん、蔵前の由来は旧幕時代の幕府の米蔵、浅草御蔵が
あり、その前町に、御蔵前片町というのがあった。これが元。
以前に明治以降の変遷を詳しくみているが、その後徐々に
範囲を広げ、また、幕府の施設である敬称の御の字が
取れたり。
で、この店は戦後にできている。
ここの旧町名は変遷はあるようだがやはり現町会名の
栄久町が最も長いよう。現町名の蔵前四丁目に
なったのは戦後も昭和39年(1964年)とかなり後のこと。
まあ、それでも既に60年たつのだが。
閑話休題。
毎度書いているが、江戸前・東京の天ぷらには
二種類ある。
先日の同じくご近所三筋の[みやこし]のような、
比較的薄衣に、天つゆも比較的薄めで、お塩でどうぞ系。
そして[いせや]は比較的ぽってりの衣でたれ、
天つゆも濃い、どちらかといえば、天丼に合っている、
天丼好適系。
歴史的には天丼好適系の方が古いと考える。
お塩でどうぞ系がいつ頃出てきたのか、以前調べた
ような気もするが、はっきりしたところは、
わからなかったと思う。
やはり、明治終わりから大正期あたりか。
目の前で揚げて、すぐに食べさせるというお座敷
天ぷらというのが出てきたらしい。
これが、どうもお塩でどうぞ系の元になっている
と考えている。
お座敷なので、比較的高級。
それで、薄衣で揚げるという、技術の向上に
繋がっていったのではなかろうか、と。
つまり、この二種類には時代的に前後ある。
古くは、東京の天ぷらはすべて天丼好適系であった
と考えられる。
今も、浅草の天ぷらやは老舗が多いが、どちらかと
いえばこの天丼好適系。ついでにいうと、銀座の
天ぷらやの老舗も基本はこちら。
まあ、当時からの盛り場であったから、であろう。
お塩でどうぞ系の方が、進化後ということで、
残ってしまった、イメージになるかもしれぬが、
私は、天丼好適系も、別のものとして、うまいと
思っている。
[いせや]は出前もやっており、コロナ時代は、
頼んだこともあるが、やはり、店に行こう。
なんとなく申し訳ないので。
ここは、予約なしでよいだろう。
歩いて、5〜6分。
これだけ歩くだけで、汗だく。
18時到着。
掛けて、ビール。
枝豆のお通しにアサヒスーパードライ。
内儀(かみ)さんは、上天重、2300円也。
私は天丼と天ぷらのセットB、2000円也。
やはり、ここは、天丼好適系、なので、天丼に
した方がうまい、のである。
天丼と天ぷらのセットB。
味噌汁にお新香。
穴子一本丸々、さいまき海老、蓮根。
丼つゆにしてもよいくらい濃い天つゆ。
穴子のサクサク。
厚めの蓮根もうまい。
丼が、いかのかき揚げ、なす。
かなりの量。
内儀さんの上天重。
海老大、さいまき海老2、小柱かき揚げ。
こちらも、かなり量はあるだろう。
どうしても、ご飯の上にのせたくなる。
昔から、こうだったのか?。
それこそ、屋台だった頃は、どうだったのか。
屋台だからといって、ご飯はないということでもない。
例えば、江戸末期のおでん(これは煮込みではなく、
味噌を塗る田楽のおでん)の屋台は茶飯(しょうゆで
炊いた飯)を出していたのは知られている。
うな丼が、江戸期に既にあったのは当時の文献にあり、
定説として認知されているようだが、天丼は知られていない。
自分でも当時の新聞記事
で調べたが、明治も20年代で
初めて見つけられたので、この頃には確実にあったことは
わかったのだが、それ以前はわからない。
ただ、なるほど、うな丼の方が、明治の初めから出てくる
ので、比べると天丼は少し後ではないか、とは推測
できると思うのだが。
ただ、では、なぜうな丼の方が早く天丼の方が後なのか、
この説明が付かないような気もする。同時にあっても
よさそうなものであろう。ん?、うなぎと天ぷらでは
価格が違い、位置付けが違っていた、とも考えられるか?。
わからぬ。依然宿題。
ともあれ。
うまかった。
ご馳走様でした。
台東区蔵前4丁目37-9
03-3866-5870
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